球技大会当日、サッカーの決勝戦は俊と健後のクラスであった
通常のサッカーと異なり15分の戦いを2回することになる
5分間のハーフタイムで選手は総入れ替えになる
どちらの組も作戦は同じだ。経験者を後半に回す。図らずとも俊と健後は戦うことになる
前半は0対0で終わり、このまま引き分けならPK戦となる
試合開始のホイッスルが鳴り、俊のクラスが攻撃を始めた

「俊パス」

遠くから飛んでくるボールを俊はスムーズに前へ運ぶ
すぐに健後がボールを奪おうと駆け寄っていく
徐々に徐々に左側のサイドラインに近付く
俊の周りに人が集まり、代わりにゴール前に小さな空間が出来る

「よし」

俊はフェイントを交えゴール前に走って来る生徒にボールを蹴る
しかし、相手は立ち止まるとあらぬ方向を向いた
蹴ったボールはまんまと相手チームに奪われてしまう

「なんでだよ」
「悪ぃー」

俊はすぐにボールに近付き相手選手をブロックをする
ボールは取り返せたが健後が肩をぶつけてくる
刹那、俊は誰に蹴るか考え、視界を遠くへ向けると――
遠くに奏が見えた
前に進むのならどうか忘れて欲しい
そう思っているはずなのに心から口へ飛び出した言葉は奏を求めていた

「渡すものかよ」

俊は強引に前へ進む。健後はせめてファウルでもと俊のゼッケンを引っ張る
審判の生徒はすぐに笛を鳴らす

「ファウル」

俊はそれでも前へ歩き、もつれるように二人は倒れる
絡み合った足はほどけず、強引に引っ張ったせいで嫌な音を立てる
立ち上がろうとも地面を踏む感覚がなくすぐに倒れる
健後も同じで手をついて起き上るもすぐにどでんと倒れた

「救護担架――」

生徒達の戸惑いの声が聞こえる

「俺今クソだせー」
「コケて骨折とかマジはずい」

健後は俊を見る

「俺あれから考えたんだけどさ
 逃げてばっかでいつも自分に都合のいい居場所を探してた」
「いいんじゃねぇの
 だいたいそういう奴ばっかじゃん」
「俺もうやめたそういうのやめた
 ちゃんと戦うよ」

健後はゆっくりと起き上がり、俊に握手を求める

「もう一度俺と信頼する仲間にならないか」

俊は健後と握手をする

「最初から信頼しているよ」

試合は0対1で俊のクラスが勝った
そんなことどうでもいいぐらいにその日は空が青く、飛行機雲が真っ直ぐに浮かんでいた



奏は停学明けにサッカー部の練習場所へ向かった
初日から授業を受けるのも空気に耐えられない
それに俊の事が気がかりだ
今一番に会いたいと思っていた
俊は奏に気が付いてコーチに声を掛ける

「すいません
 ちょっとへばって」
「暑いからな
 10分だけだぞ」
「あざす」

俊は奏を手招きする
奏は俊の後に続き、グラウンドから見えない場所へ移動する

「どうした」
「バンドよりサッカーがいいの」
「バンドがいいに決まってんだろ」
「じゃあなんで」
「お別れを言わないといけないから」

奏ははっとなる

「頭の中の」
「そう俺が王子様
 自分で言って照れるな」

奏は頭を下げる

「ごめん
 俊君だって知らなくて」
「いいよ」

俊は奏の頭を撫でる

「寂しい思いさせて悪かったな」
「今も寂しい」
「ごめん本当に
 上手くいくと思ってた」
「言葉にしてくれないと気が付かないでしょ」
「そうだよね」

奏は顔を上げる

「やっぱり駄目なの」
「前に進もう」

俊は奏の顎に触れると静かに口付けをした
奏は過去を思い出し胸に温かいものが溢れる

「奏のことが好きだった」
「私も俊君のことが好きだった」

俊は優しく微笑む

「歩こうか」
「・・・うん」

俊はゆっくりと前へ歩き出す
これからも学校で会えるのに、奏は俊の背中を名残惜しそうに見る
俊は左腕を上げ、人差し指を立てる

「俺達がナンバーワン」

奏は泣き笑いをする



レクリエーション室では奏の復帰を祝う準備が進められていた