去年の6月。部のライブも終わり健後は俊の自宅へ行った
サッカー部での遺恨もある。まだ腹を割って話せる関係ではないが友達としての付き合いは続けていた
テーブルの上には缶ビールが3本とパックの梅酒が1つ
俊はキッチンで器用に氷を割る
健後は危なげな手つきに思わず声を出す

「おいおい酔っているのに危ないって」
「平気いつものことだから」

丸い氷が2つのグラスに落ちる
梅酒が注がれると琥珀色に輝いた
俊と健後はグラスを片手に乾杯をする

「乾杯」

コチンと冷たい音がする
ゴクリと飲めば口いっぱい優しく甘い梅の味で満たされ、アルコールが喉に爪を立てる
健後は息を吐いて笑う

「こんなにうまい酒は久し振りだ」
「言い過ぎだぜ」

飲酒を始めたのは中学生の頃
一度も罪悪感は感じたことはなかった
うっかり家族の前で飲んだ時は流石に怒られると思った
しかし両親は特に何も言わなかった
今となっては習慣となっており、お互いどちらかの家で集まって飲むこととしている

「俺酒断ちしようと思っている」
「今更」
「本格的に音楽をやろうと思って」
「そうなんだ」
「だからお前と飲むのは成人してからだな」
「楽しみにしているよ」

その後、他愛のない会話を楽しんで別れた

「じゃあまた遊びに来いよ」
「おう」

その"また”は実現しないまま月日を過ぎて行った



悪夢を酔いで忘れようと健後はキッチンへと向かった
冷蔵庫を開けるとアルコール飲料は一つもなかった
健後は舌打ちをして扉を閉める
流し台に行き蛇口からコップに水を注ぎ飲んだ
スマホを見ると、もうすぐで午前3時になりそうだ
画面をスワイプして、写真フォルダーを開く
「思い出を整理しませんか」と、無作為に選ばれた写真が流れて来る
懐かしい。ライブの出演オーディションの写真だ
健後がステージに立ったのはこれが最後になる
次の写真は奏と遊園地で撮った写真だ
この頃からだったか。ブルー・トレインは6月のライブを境に崩壊していった