午後9時、蓮児は映画館を出て、24時間営業のスーパーに向かう
映画は「ローマの休日」のリバイバル上映であった
あどけない少女が映画の終盤に大人の女性へと変貌するのは何度見ても美しい
光悦な表情でエスカレーターを降りると、ウェディングドレスが目に留まった
どうやら催事場でドレスの販売や式場の予約をしているらしい
どこかのビーチを映したパネルの前に純白のドレスが輝いている
ガラスに透過した自分の姿を重ね想像する。一度でも着てみたいものだと
蓮児は可愛いものが好きであった
だからといって同性愛者ではない
部屋着はいつもロングスカートに可愛い柄のTシャツだ
家族には趣味全開で接しているが、家族以外の人間には趣味を隠して接している
小学1年生の時に劇の役を決める時間でシンデレラの役をやると手を挙げた時から
周りにとってそれが普通じゃないと覚え、隠すようになった
もしもいつか自分が結婚したら、パートナーはどう思うだろうか
自分の趣味趣向は理解されなくていい
いや、生涯を共にするパートナーに理解されないのは孤独ではないか
蓮児は悶々と考えこみながら歩く



24時間スーパーで食材を買い込むと早速下ごしらえを始めた
3人で始めたバンドも今は8人の大家族だ
食費は馬鹿にならない
蓮児はバイトをして食費を稼いでいた
料理こそ唯一他人に理解される趣味
なにもそこまでしなくてもと言われても手は止められない

「今日も家族の為にお父さん頑張るわよー」

ガスコンロの火を勢いよく点ける