俊と奏は幼稚園が同じであった
今では考えられないほど奏は人懐っこく誰とでも仲良くした
その中でも俊は特別で、人目があろうと奏はキスをした
今でも俊はあの唇の感触を覚えている
卒園を間近に控えた頃、両親の仕事の都合で引っ越すことになった
といっても5キロも離れていない距離であったが
なので幼稚園は卒園したことにはなっていない
最後の思い出は卒園式のちょうど一週間前
とっくに引っ越しを終え、久し振りに組の皆と再会し、先生の披露宴に参列した
奏は上品な紫色のドレスに花の形をしたブローチを付けていた
サプライズで合唱した時も、料理をつまんでいた時も、花嫁よりも長く俊は奏を見ていた
披露宴が終ると俊と奏は鐘の前で写真を撮った
その写真は寝室のベッドの横に今も飾っている
写真は少しくすんでしまったが、思い出の中にいる奏は今も綺麗なままだ
もちろん、今の奏も綺麗だが
写真を飾ったその日から俊は毎日欠かさず話し掛けた
いつか再会するかもしれない。仄かな期待は確かなものとなり高校で再会する
※
俊はクラス発表の表を見て驚く
諫早奏という名前が、同じクラスの中にいたとは
意気揚々教室に向かうと自分の席の後ろに奇抜な格好をした女子生徒が座っていた
「諫早さんだよね」
「そうだけど」
「どっかで会わなかった」
「どっかって?」
同じ幼稚園のと言い掛けて口を閉ざす
あの時キスしてくれたなんて言ったら印象が悪くなるし気持ち悪いに決まっている
「えっと・・・どっか」
「さぁ分かんない」
「そう・・・だね」
それから会話をすることなく、次に話をしたのは軽音楽部の説明会に参加した時であった
偶然、奏を見掛けて声を掛けた
「奏さんはもう誰と組むか決めた」
「こっちはドラマーが見つかれば決まりです」
「なら俺とバンド組まない」
数秒間の沈黙の後、うなずく
「わかった」
「よっしゃ」
俊は心の中で小さくガッツポーズをする
奏は蓮児に手を振る
「蓮児君ドラム見つけた」
「本当か」
蓮児と呼ばれた男子生徒は相当に見た目がチャラついていた
奏はこういうタイプが好きなんだ
俊は高校に入って髪を染めただけの自分に閉塞感を感じた
※
俊が奏や蓮児と一緒にバンドを組むと周囲の目は憐みに変わった
傍から見れば、不良とパシリだ
しかし俊は元はサッカー部だけに飄々とした見た目に反しガッツがある
すぐに気が合い打ち解けた
蓮児は見た目に反し真面目な人であった
頼んでもいないのに弁当を用意し、昼休みは中庭で3人集まり食べた
まるで小学生の時の遠足だ
バンド結成から間もない日の昼食
「俊は中学でサッカー部なんだろ
どうしてドラム叩けるんだ」
「兄貴がJ3の選手で
応援に行った時の話なんだけど」
奏は箸を止め目を輝かせる
「J3凄い」
俊は大袈裟に手を振る
「いや大したことないよ」
「でも昇格したらJ1になるんだろ」
「J1?
無理だよここ10年10位より上に行ったことがない」
それに上のリーグを目指せば、資金や施設の条件が厳しくなる
せっかくの昇格話を手放してしまうチームもあるほどだ
「それでたまたま車の鍵落としたの拾って
そのお礼にって誘われて
母親とライブに行ったんだ」
なんかもらったとチケットを母親に渡した時、物凄く驚いていた
正直、出演バンドの事は分からなかったが、母親曰く世界的なバンドらしい
一時期はファンクラブに入会していたほどのファンで、妊娠してからは退会し、ライブに行ってはいない
それが関係者席でタダで観れるなんて強運の持ち主だと、かつてないほど褒め称えれた
「じゃあめっちゃ凄いドラマーなの」
奏のテンションが高くなる
「俺マジ驚いたんだぜ
関係者席にいないと思ったらステージにいたんだ
サポートメンバーで出演してて」
「名前なに」
「Satoshi」
「えっまじで音楽番組でよく楽曲解説している人じゃん」
「いいなぁ私もそういう運命的な出会いしたいなぁ」
俊は奏の言葉にビクリとする
「じゃあそれがきっかけでツーバス叩いてたのか」
「小2の頃だったから5年くらいは教えてもらったかな」
奏と蓮児は静止する
「「直接!!!」」
「初めは何もできなくて怒られては泣いて帰ってたけどな」
「でもサッカー続けなくていいのか」
「まぁ兄貴の関係で幼稚園に通っていた頃からずっとやってたし
嫌いになったわけじゃないけどもう満足かな
ドラムはずっと一人だったから誰かとやりたいと思ってたし」
俊は二人の肩に手を置いてぐっと引き寄せる
「お前達と組めてよかったと思うぜ」
「馬鹿野郎
そういうのは卒業してから言えよ」
「そうだよ
もう涙出て来た
化粧崩れる」
奏はうっすらと涙を浮かべる
俊はもっと泣いた顔をみたいと思った
すぐに邪な考えは駄目だと顔を横に振った
今では考えられないほど奏は人懐っこく誰とでも仲良くした
その中でも俊は特別で、人目があろうと奏はキスをした
今でも俊はあの唇の感触を覚えている
卒園を間近に控えた頃、両親の仕事の都合で引っ越すことになった
といっても5キロも離れていない距離であったが
なので幼稚園は卒園したことにはなっていない
最後の思い出は卒園式のちょうど一週間前
とっくに引っ越しを終え、久し振りに組の皆と再会し、先生の披露宴に参列した
奏は上品な紫色のドレスに花の形をしたブローチを付けていた
サプライズで合唱した時も、料理をつまんでいた時も、花嫁よりも長く俊は奏を見ていた
披露宴が終ると俊と奏は鐘の前で写真を撮った
その写真は寝室のベッドの横に今も飾っている
写真は少しくすんでしまったが、思い出の中にいる奏は今も綺麗なままだ
もちろん、今の奏も綺麗だが
写真を飾ったその日から俊は毎日欠かさず話し掛けた
いつか再会するかもしれない。仄かな期待は確かなものとなり高校で再会する
※
俊はクラス発表の表を見て驚く
諫早奏という名前が、同じクラスの中にいたとは
意気揚々教室に向かうと自分の席の後ろに奇抜な格好をした女子生徒が座っていた
「諫早さんだよね」
「そうだけど」
「どっかで会わなかった」
「どっかって?」
同じ幼稚園のと言い掛けて口を閉ざす
あの時キスしてくれたなんて言ったら印象が悪くなるし気持ち悪いに決まっている
「えっと・・・どっか」
「さぁ分かんない」
「そう・・・だね」
それから会話をすることなく、次に話をしたのは軽音楽部の説明会に参加した時であった
偶然、奏を見掛けて声を掛けた
「奏さんはもう誰と組むか決めた」
「こっちはドラマーが見つかれば決まりです」
「なら俺とバンド組まない」
数秒間の沈黙の後、うなずく
「わかった」
「よっしゃ」
俊は心の中で小さくガッツポーズをする
奏は蓮児に手を振る
「蓮児君ドラム見つけた」
「本当か」
蓮児と呼ばれた男子生徒は相当に見た目がチャラついていた
奏はこういうタイプが好きなんだ
俊は高校に入って髪を染めただけの自分に閉塞感を感じた
※
俊が奏や蓮児と一緒にバンドを組むと周囲の目は憐みに変わった
傍から見れば、不良とパシリだ
しかし俊は元はサッカー部だけに飄々とした見た目に反しガッツがある
すぐに気が合い打ち解けた
蓮児は見た目に反し真面目な人であった
頼んでもいないのに弁当を用意し、昼休みは中庭で3人集まり食べた
まるで小学生の時の遠足だ
バンド結成から間もない日の昼食
「俊は中学でサッカー部なんだろ
どうしてドラム叩けるんだ」
「兄貴がJ3の選手で
応援に行った時の話なんだけど」
奏は箸を止め目を輝かせる
「J3凄い」
俊は大袈裟に手を振る
「いや大したことないよ」
「でも昇格したらJ1になるんだろ」
「J1?
無理だよここ10年10位より上に行ったことがない」
それに上のリーグを目指せば、資金や施設の条件が厳しくなる
せっかくの昇格話を手放してしまうチームもあるほどだ
「それでたまたま車の鍵落としたの拾って
そのお礼にって誘われて
母親とライブに行ったんだ」
なんかもらったとチケットを母親に渡した時、物凄く驚いていた
正直、出演バンドの事は分からなかったが、母親曰く世界的なバンドらしい
一時期はファンクラブに入会していたほどのファンで、妊娠してからは退会し、ライブに行ってはいない
それが関係者席でタダで観れるなんて強運の持ち主だと、かつてないほど褒め称えれた
「じゃあめっちゃ凄いドラマーなの」
奏のテンションが高くなる
「俺マジ驚いたんだぜ
関係者席にいないと思ったらステージにいたんだ
サポートメンバーで出演してて」
「名前なに」
「Satoshi」
「えっまじで音楽番組でよく楽曲解説している人じゃん」
「いいなぁ私もそういう運命的な出会いしたいなぁ」
俊は奏の言葉にビクリとする
「じゃあそれがきっかけでツーバス叩いてたのか」
「小2の頃だったから5年くらいは教えてもらったかな」
奏と蓮児は静止する
「「直接!!!」」
「初めは何もできなくて怒られては泣いて帰ってたけどな」
「でもサッカー続けなくていいのか」
「まぁ兄貴の関係で幼稚園に通っていた頃からずっとやってたし
嫌いになったわけじゃないけどもう満足かな
ドラムはずっと一人だったから誰かとやりたいと思ってたし」
俊は二人の肩に手を置いてぐっと引き寄せる
「お前達と組めてよかったと思うぜ」
「馬鹿野郎
そういうのは卒業してから言えよ」
「そうだよ
もう涙出て来た
化粧崩れる」
奏はうっすらと涙を浮かべる
俊はもっと泣いた顔をみたいと思った
すぐに邪な考えは駄目だと顔を横に振った