また女子に告白された
俊は悲しげな背中を見送り、小さく「元気でね」と呟く
相手はこないだ練習試合で戦った高校の生徒であった
他校の生徒なのによく練習を見に来るものだから顔は覚えた
俊の背中を健後は強く叩く

「見てたぜ俊
 また女の子泣かせて」
「どうでもいい」
「ジジィになって結婚相手がいなって嘆いても知らねえからな」
「お前こそ彼女に振られたくせに」

健後は傷付いた素振りを見せる

「夜の遊園地の観覧車で言われると思わなかったぜ」
「俺はお前のそういうダサいところ好きだぜ」

二人は宗麟大橋を渡る
反対側には軽音楽部らしい女子生徒がなにやら言い合っている

「俺スイーツ食いたい」
「えっ」

確かに女子生徒は美味しそうなスイーツを挙げている
大方、誰が奢るかで揉めているのだろう

「よっしゃーコンビニに寄るか」

健後は俊の肩に腕を回す
練習終わりだけに酸っぱい汗のにおいがする
俊は腕を払う

「わかったよ」



コンビニに入店すると健後は御手洗いを借りに行った
俊は化粧品のコーナーで立ち止まる
「恋は唇から始まる」と書かれたポップの下に広々とリップ・クリームが展開している

「恋か」
「なにお前恋しているの」

俊は驚き横に跳ねる

「わっ!!!」

丁度タイミングよく一青窈の「ホチKiss」が流れ始める
俊は足早にスイーツの棚に向かう

「おいおいおい教えろよ
 親友だろ」
「俺は恋してない」
「奏に振られてもう他の女とは付き合わない
 なんてムーブかましてたのに
 次はどこの女だ」
「奏とはそんな関係じゃない」
「「私の好きに気が付いて」と儚げだったぜ俊」
「俺いい加減怒るぞ」
「可愛いな」

レジにいる若い女性店員はにやりと笑う



俊は健後とコンビニで別れ、バス停へと向かう
大分駅周辺はどこも道が広く車の往来は激しい
地方の過疎化なんて言葉が嘘みたいだ
五月蠅い車の走行音を聞き、狭い歩道を歩く
今日はなぜか寂しい
軽音楽部の部員を見たせいだろうか
誰か同級生が通ってくれないかと思う
別に今のサッカー部が孤独なわけではない
そもそも自分で選んだ道だ。悔いはない
しかし、軽音楽部ほど心で会話を出来る部活ではない
時には衝突を回避して会話をしなければまともな試合すらできなくなる
本音と本音をぶつけ合い、曲を作るあの空間は特別だ
兼部していることになっているからまた顔を出そうか
もうそこには居場所はないかもしれないが
15分ほど歩き、バス停に着く
バスを待つと高架の上を鉄道が走り、さきほどとは別の女子生徒が手を振っているのが見える
俊は無理矢理笑顔を作り手を振り返す
バスが到着し乗り込むと後ろの席に座りスマホをいじった
無性に過去が恋しくなり写真フォルダを開く
ちょうど一年前のこの時期、確か3回目の練習だったが、防音室内で撮った写真を見る
ブラック・サバス、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル
三大ハードロック・バンドにちなみ黒紅梅
梅は梅紫から取った
奏とバンドを組むのは予想外であったが、それはとても幸福であった
なぜならば、俊にとって奏は初恋の相手だからだ