鶴美はオンライン会議を終えて、昇降口で待つ奏と合流した
奏はやけに上機嫌でにやけた顔で鶴美を見る
「どうかしたか」
「別に」
二人は夕食のため歩き出す
場所は学校から程近い住宅街にあるラーメン屋・鬼怒川亭
しほりの両親が営むラーメン屋である
鶴美と奏は入店し席に座る
明確な時期は定かでないが、2人が部活に参加する日は、必ず練習時間を合わせここで食事をしている
鶴美はバンド活動が軌道に乗っているため、そもそも学校に来るのは珍しい
月の半分を東京のビジネス・ホテルに滞在し、学業よりもアーティスト活動を優先している
奏は内心寂しいと思うが、卒業したら上京し鶴美に甘えるつもりで、今は我慢と耐えている
店員は食券を受け取ると、麺の堅さを聞いて調理に入る
「来月が初給料だな」
「次に来た時は私が払います」
「貯めておけよ」
奏は水を飲む
「相変わらず忙しそうですね先輩」
「そうだな
1年生の案内が終わって練習が出来ると思ったが
追加の案件で会議が早くに始まった」
「こっちもタイアップは取れって
コンペに向けて曲作っています」
「アニメ?」
「小規模公開の実写映画です」
「楽しみだ」
店員は机にどんぶりを置く
「豚骨ラーメン小・半豚・半熟卵おまち」
「ありがとうございます」
チャーシュー1本の半分をのせた豚骨ラーメンだ
国産牛肉を使用したチャーシューは脂の味がしっかりして美味しい。醬油ベースの甘口な味付けなので食べ続けても口の中が辛くならない。幾層にも重なった肉を捲り続けてやっと現れる麺。箸で切った肉とすすれば、この上ない絶品の味だ
「豚骨ラーメン特大・半熟卵おまち」
麺800gだけに器が大きい
だがそれを鶴美はなんなく平らげる
食欲の猛者ならば麺1.5キログラムに全トッピングの〈巨食漢〉がある。壁には完食者の写真が貼られている
鶴美も一度頼もうとしたが奏にしつこく止められやめた。内心、まだ諦めきれていない
「「いただきます」」
二人は箸を割り無言で食べる
しばらくして奏は箸を置く
「今年の一年生は大人しそうですね
このまま波風立たなければいいですけど」
「奏が荒れてただけだろ」
「それいいます」
実際、入学した頃の奏は悪目立ちをしていた
校則違反の派手な化粧に着崩した制服
厚底ブーツの靴音が鳴れば上級生でさえ道を開けるほどだ
だが、鶴美は他の生徒と違った
誰よりも音楽を愛し、自分の好きなことを曲げない真っ直ぐな生徒だと評価していた
実際奏と蓮児と天草俊(アマクサシュン)の3人で活動していた黒紅梅(クロベニウメ)は熱心な活動が評価され、6月のライブでは1年生の代表としてステージに立った
結成オーディションと違い、全曲オリジナル曲で挑み会場を沸かせ、すぐに学外へ名が知れ渡った
「でも音楽だけは本物だ」
「停学した時以外、普通科目も単位落としてないです」
「そうだな」
奏達が入部する前年、ジャズ愛好会が廃止になった
3年生のみの活動に幕を閉じたのだ
時を悪くして、ジャズをやりたい生徒が入学し、円は彼等を軽音楽部に引き入れた
ニューヨークの地下鉄から取って、ブルー・トレインというバンドが結成した
黒紅梅の3人を除く、現・ー1の5名と、ベースの高森健後(タカモリケンゴ)から成る
しかし、球技大会のサッカーの試合中、健後と俊が怪我をする
鶴美は2人をバンドから外し、黒紅梅をブルートレインと合流させる形とした
この時から奏の心は揺らぎ始める
「どうして私達のバンドが解散しやりたくもないジャズをやらないといけないのですか」
「これがいつもの年ならねそうはしなかったの
だけどジャズ愛好会の事もあったし
ここで見放したら面倒を見ると言ったこちらの分が悪いの」
「それは先生の勝手でしょ」
「奏!!!」
「回復を待ってくれてもいいじゃないですか」
「サポートに回せるメンバーがいないからよ」
奏は机を力強く叩く
マグカップの中身が浮き机を濡らす
「運に見放されたら掴み取るだけ
自分達で空いた穴ぐらい塞ぎます」
「やめておけ
無駄足になるだけだ」
「はぁっ先輩まで先生の肩を持つんですか」
「そりゃそうだ
意気消沈した彼等を誘ったのはなにも先生だけじゃないからな」
「納得いきません」
「辞めるか」
「私に退部しろって言うんですか」
「続けたいならな
だが自分が副部長であることを忘れるな
お前以外部を仕切れない」
「私みたいな嫌われ者じゃなくても代わりはいくらでもいます」
奏は踵を返し歩く
「失礼しました」
奏は大きな音を立てドアを閉める
この時の鶴美は楽観視していた
怒りの感情は一時的なものだと
奏は了承もせず否定もせず、2つのバンドは合流し、夏休みを迎える
奏はやけに上機嫌でにやけた顔で鶴美を見る
「どうかしたか」
「別に」
二人は夕食のため歩き出す
場所は学校から程近い住宅街にあるラーメン屋・鬼怒川亭
しほりの両親が営むラーメン屋である
鶴美と奏は入店し席に座る
明確な時期は定かでないが、2人が部活に参加する日は、必ず練習時間を合わせここで食事をしている
鶴美はバンド活動が軌道に乗っているため、そもそも学校に来るのは珍しい
月の半分を東京のビジネス・ホテルに滞在し、学業よりもアーティスト活動を優先している
奏は内心寂しいと思うが、卒業したら上京し鶴美に甘えるつもりで、今は我慢と耐えている
店員は食券を受け取ると、麺の堅さを聞いて調理に入る
「来月が初給料だな」
「次に来た時は私が払います」
「貯めておけよ」
奏は水を飲む
「相変わらず忙しそうですね先輩」
「そうだな
1年生の案内が終わって練習が出来ると思ったが
追加の案件で会議が早くに始まった」
「こっちもタイアップは取れって
コンペに向けて曲作っています」
「アニメ?」
「小規模公開の実写映画です」
「楽しみだ」
店員は机にどんぶりを置く
「豚骨ラーメン小・半豚・半熟卵おまち」
「ありがとうございます」
チャーシュー1本の半分をのせた豚骨ラーメンだ
国産牛肉を使用したチャーシューは脂の味がしっかりして美味しい。醬油ベースの甘口な味付けなので食べ続けても口の中が辛くならない。幾層にも重なった肉を捲り続けてやっと現れる麺。箸で切った肉とすすれば、この上ない絶品の味だ
「豚骨ラーメン特大・半熟卵おまち」
麺800gだけに器が大きい
だがそれを鶴美はなんなく平らげる
食欲の猛者ならば麺1.5キログラムに全トッピングの〈巨食漢〉がある。壁には完食者の写真が貼られている
鶴美も一度頼もうとしたが奏にしつこく止められやめた。内心、まだ諦めきれていない
「「いただきます」」
二人は箸を割り無言で食べる
しばらくして奏は箸を置く
「今年の一年生は大人しそうですね
このまま波風立たなければいいですけど」
「奏が荒れてただけだろ」
「それいいます」
実際、入学した頃の奏は悪目立ちをしていた
校則違反の派手な化粧に着崩した制服
厚底ブーツの靴音が鳴れば上級生でさえ道を開けるほどだ
だが、鶴美は他の生徒と違った
誰よりも音楽を愛し、自分の好きなことを曲げない真っ直ぐな生徒だと評価していた
実際奏と蓮児と天草俊(アマクサシュン)の3人で活動していた黒紅梅(クロベニウメ)は熱心な活動が評価され、6月のライブでは1年生の代表としてステージに立った
結成オーディションと違い、全曲オリジナル曲で挑み会場を沸かせ、すぐに学外へ名が知れ渡った
「でも音楽だけは本物だ」
「停学した時以外、普通科目も単位落としてないです」
「そうだな」
奏達が入部する前年、ジャズ愛好会が廃止になった
3年生のみの活動に幕を閉じたのだ
時を悪くして、ジャズをやりたい生徒が入学し、円は彼等を軽音楽部に引き入れた
ニューヨークの地下鉄から取って、ブルー・トレインというバンドが結成した
黒紅梅の3人を除く、現・ー1の5名と、ベースの高森健後(タカモリケンゴ)から成る
しかし、球技大会のサッカーの試合中、健後と俊が怪我をする
鶴美は2人をバンドから外し、黒紅梅をブルートレインと合流させる形とした
この時から奏の心は揺らぎ始める
「どうして私達のバンドが解散しやりたくもないジャズをやらないといけないのですか」
「これがいつもの年ならねそうはしなかったの
だけどジャズ愛好会の事もあったし
ここで見放したら面倒を見ると言ったこちらの分が悪いの」
「それは先生の勝手でしょ」
「奏!!!」
「回復を待ってくれてもいいじゃないですか」
「サポートに回せるメンバーがいないからよ」
奏は机を力強く叩く
マグカップの中身が浮き机を濡らす
「運に見放されたら掴み取るだけ
自分達で空いた穴ぐらい塞ぎます」
「やめておけ
無駄足になるだけだ」
「はぁっ先輩まで先生の肩を持つんですか」
「そりゃそうだ
意気消沈した彼等を誘ったのはなにも先生だけじゃないからな」
「納得いきません」
「辞めるか」
「私に退部しろって言うんですか」
「続けたいならな
だが自分が副部長であることを忘れるな
お前以外部を仕切れない」
「私みたいな嫌われ者じゃなくても代わりはいくらでもいます」
奏は踵を返し歩く
「失礼しました」
奏は大きな音を立てドアを閉める
この時の鶴美は楽観視していた
怒りの感情は一時的なものだと
奏は了承もせず否定もせず、2つのバンドは合流し、夏休みを迎える