午後7時、一年生は練習を終えることとした
鍵当番は2週間ごとに交代で、最初は八子達のバンドが担当することになった
うづめは元気よく手を振る

「それじゃあよろしくね」
「また明日」

八子達は大分駅に向かう部員達と別れ職員室へと向かう
大分川に跨る宗麟大橋を渡る途中、響は八子に問い掛ける

「そういえばバンド名まだ決めてないよね」
「ORANGE CUBE」
「オレンジキューブ?」
「私が普段使っているアンプから付けた」

火花はぼそりと呟く

「マシュマロキャンディー」
「えっ」
「へっ」

火花は顔を赤くさせながらもう一度言う

「マシュマロキャンディー」
「可愛いじゃん
 それにしよう」
「ダメかな」
「うーん
 せっかくの提案なんだけどそういう音楽じゃないからさ
 ポップ・アンド・キュート路線じゃないじゃん」

火花は人差し指を立て、八子の脇腹を突っつく

「認めてあげたら」
「絶対嫌だ」
「バウムクーヘン・ガール」
「だめ」
「大分プリン」
「絶対どっかに売っているから却下」
「シナモン・ロックンロール」
「スイーツシリーズは許可しません」

響はお菓子売り場で似たような光景を見たことあるなと微笑ましく眺める



三人は職員室で円に今日の報告をする
円はご満悦と言ったところだ

「よかったわ順調そうで」
「そうですね」

円はプリントを八子に渡す

「じゃあこれオーディションのエントリーシート
 部のライブのもあるから忘れずにね」
「頑張ります」

円は鍵をぐっと握りしめる

「ファイト!!」

3人は踵を返し職員室を出る
円は慌てて呼び止める

「火花さん」

火花は振り返る

「校内はアクセサリー付けちゃダメ」
「すいません」

火花は慌ててチョーカーを外す
再び、3人は職員室を出る

「失礼いたしました」

円は机に向き直り怪訝な顔をする

「火花さん
 耳が聴こえているわよね」

向かいに座るミナカはしまったと顔をする
円は見逃さず、不敵な笑みを浮かべる
ミナカは引き出しを開き、円にガムを投げつける
円はガムを手にすると中身を口に入れ、包装紙を丁寧に畳み、引き出しに入れる
円の引き出しには45枚、ミナカの引き出しには44枚
年度終わりに一番枚数が少ない方が食事を奢るという事になっている

「ミナカ先生きちんと引継ぎをお願いします」
「安心してください
 絶対に次からはミスをしないので」
「絶対?
 世の中には存在しませんよそんな言葉」

二人が火花を散らす中、職員室にいた教員達は静かに廊下に出た



昇降口前には見慣れた車が止められている
火花は車に駆け寄る

「火花じゃあね」

火花は振り返り小さく頷く

「またな」

火花はツンとした顔で不服そうに車に乗り込む
車は発進する

「ありゃ解散の危機ですか」
「寝れば忘れるでしょ」
「これは駄目な彼氏の典型例」
「うるさい
 行くぞ」

二人は駅に向けて歩き出す