八子達の隣の防音室内にて
航海はチューニングを終えて顔を上げる

「それで僕はなにを弾けばいいの」
「物語性がある楽曲は崩したくないのです」
「なるほど」
「悪ノPですと航海さんの楽曲のコンセプトと似通ってしまいます」
「なんかディスられた」
「あらすいません
 ですから自然の敵じんPでよろしいのではないでしょうか」
「カゲプロね」

あみは手を挙げる

「はいはーい
 それなら私ベース弾けるよ
 勝黄はボカロでいい」
「聴いたことねぇから分かんねぇけど
 ボカロだいたいアレンジしやすいからいい」
「確かに僕の場合ドラムは分からないから
 本に書いてあるフレーズをそのまま打ち込んでいたな」
「バンドの曲は寸分変わらず叩かないと曲の輪郭が崩れる」
「ボカロ曲で「このドラムがっ!!!」みたいなのあんまり聞かない」
「ロストワンの号哭」
「あっそっか」

あみは何か言いたげな顔をする

「でもさ
 まだ航海君入部希望者なんだよね」
「オーディションまでやって手応えあった入部する」
「慎重者だな」
「これから先航海が曲を作るのだろう」
「ああそうだけど」
「つまり航海がいないと終わる」

航海は困った顔をする

「しまったな」
「いいんじゃないですか
 ここは腹を決めて一緒に地獄に落ちるというのは」
「地獄って」
「逆にどうして駄目なんだ」
「昔から皆と何かするの苦手でさ」

あみはくすりと笑う

「なんだ
 「僕の寿命は残り僅かなんだ」
 みたいな大層な理由があると思った」
「笑うなよ」
「では入部ということでよろしいでしょうか」
「その前に
 僕は音楽が出来ない奴に優しく出来ない
 誰か一人でいい実力を見せてくれ」
「それならあみが最適だ」
「チビんなよ」

みるくは鞄からスピーカーを取り出すとスマホと繋げる
あみは素早くマイクをセッティングする

「行きますわよ」

みるくは自然の敵じんPの「アウターサイエンス」を歌い始めた
声量は言わずもがな腹に鉛玉を食らうかのような迫力
優しく語りかけるような柔らかさから心臓が凍り付くような冷たさまで変幻自在に魅せる
航海は思わず呟く

「売れる」