車中、ジャックは火花と話す

「学校では使わないという約束でしたが」

ジャックは静かに火花に怒る

「ごめんなさい
 でも音楽をやりたいのは本当よ」
「全くあなたという人は
 ご両親に話もなく決めて」
「丸く収めてくれると嬉しいのだけれど」
「なら反省の意としてご返却ください」
「わかったわ」

火花はチョーカーを外す
キーンと頭の中で金属音が鳴る
火花はこの瞬間が一番嫌いであった
世界中から音が消え孤独になる瞬間が
火花は暗い顔で窓の外を見る
外は暗くなにも見えない
まるで自分の心と同じだと火花は思う



ジャックは火花を自宅へと送り、研究施設へ戻る
研究施設のラウンジでは、南宗太郎(ミナミソウタロウ)が待ち構えていた
ジャックは宗太郎を近くの椅子へと手招きする

「座りたまえ」

宗太郎はパソコンを操作する

「チョーカーを外の人間に見せたな」
「申し訳ございません
 私の監督責任です」
「別に構わない
 いずれ発表する予定だからな
 それに噂を聞きつけて魚が群がるかもしれない」

宗太郎はほくそ笑む
彼の心中には常にビジネスがあった

「では学校で使用してよいと」
「授業はこれまで通りに
 部活動なら許可をする」
「なぜ授業では駄目なのですか」
「北谷八子がいないからだ」

ジャックは初めて聞く名だと思った

「我々は四神(シシン)が国を護るという言い伝えを信じている
 本家の北家、東家、南家、西家
 そして分家の北山家、北谷家、東山家、東谷家、南山家、南谷家、西山家、西谷家」

宗太郎は一呼吸を置く

「北家が黙っていないわけがないが
 同じ四神信仰の家の元
 二人が関わりどういう結果が出るのかも気になる」

宗太郎はパソコンを持ち立ち上がる

「5月のどこか
 彼女をここへ招待しよう
 そして被検体として迎え入れる」
「分かりました」
「準備をしておきたまえよ」
「はい」

宗太郎は去り際に呟く

「千里(チサト)はどこにおる」



同日深夜
新宿駅近くの裏路地
商業施設と線路の狭間にある道
男は胸から血を流し倒れる
すぐにパトカーが来てヘッドライトが北谷千里(キタタニチサト)を照らす
警察官は車から降りると、すぐに被害者の元へと向かった
目の前に殺人者がいるというのに逮捕する素振りも見せない
千里は自販機でコーヒーを買い、すぐに飲み干す
人を殺した後の心臓は冷たい
千里はぶるりと身を震わし、静かにその場を立ち去る