響はポテトを口にしながら言う

「結成オーディションなにやる」
「ベース・レス・バンドでいい曲あるんだ」

八子は鞄からCDを取り出す

「Animals as Leaders の The Price of Everything and the Value of Nothing」
「どんな感じ」
「後半にいくにつれて激しくなる
 ドラムはいつも忙しい感じ」
「なにそれ最高じゃん」
「静かにさざ波を立てる始まりにしたいんだよね」
「へぇ
 2曲目は」
「普通のバンドでいいからなるべくベースがなくても違和感がない曲」
「難しい要求だね」
「Muse の Knights of Cydoniaはどうかな」
「3人組バンドか」
「私知らない」
「西部劇風な曲
 確かにイントロが長いからボーカルなしでいける」
「私達インストバンドじゃないんでしょ」
「そうだね
 ボーカルは入れたい」
「ドラム叩きながらはちょっとね」
「火花は歌える?」
「チョーカー次第かな」
「だよね
 まぁ私も歌下手じゃないからダメな時は任せて」
「ありがとう」

響はノートを取り出しシャープペンで書き込む

「つまり2曲やると
 どっちもインスト?」
「Museは歌詞あるけど英語歌詞は無理かな」
「そうだね今回だけインストで」
「持ち時間が15分だから余った時間は?」
「私と響でなんか弾くから
 終りの合図はしてもらってもいいかな?」
「了解」

3人は小冊子をぱらぱらとめくる

「6月のライブのオーディションは2週間前の土曜日に開催
 だからそれまでに結成オーディション受けないといけないのか」
「一か月で仕上げて結成オーディション
 さらに磨きをかけてライブのオーディションだね」
「うん」

ライブのオーディションのページで手が止まる

「セッティングで15分、サウンドチェックで5分、本番15分、撤去で15分
 時間超過は30秒ごとに1点減点」
「15分超過したら失格になると」
「審査項目も細かいね
 曲の完成度、演奏技術はもちろん、ミスをカバーできるのかも大事になるんだね」
「このライブ感ていう項目はお客さんがいる想定でパフォーマンスが出来るのかみるんだ」
「ちょっと待って
 デモ音源の提出あるじゃん」

八子は航海に声を掛ける

「航海君
 レコーディングってできる?」
「録るだけならいける」
「わかった
 じゃ頼むわ」
「うす」

3人の間にうづめが入る

「もう作戦会議しているの」
「うづめさん
 時間あまりないからね」
「キョウちゃんは彼氏とかいないの」
「なにを唐突に」
「勝黄が聞いて欲しいって」

勝黄は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる

「やめろって」
「男らしい女の子大好きなんだよ」

響はわざとらしくゆっくり大きな声を出す

「そうなんだ
 でもごめんね私には八子がいるから」
「私のキョウだから」

部員達の間にどっと笑いが起こる
慎之介と剣は囃し立てる

「振られたな」
「いいぞ勝黄
 恋敗れてこそ男の道だぞ」

勝黄はやけになってコーラを一気飲みする

「畜生こんな部嫌いだ」