『おはよう!』
『おはよう。ねえ、昨日のテレビ見た?』
『見た見た。あの芸能人が……』
『おい、古宮。今日部活来るか?』
『今日は、面倒だからバックれようかな』
『ははは、なんだよそれ。お前、そろそろ部活来いって』


いつもの教室。

 今日も、扉を開けるといろんな声が聞こえてくる。テレビの話、部活の話……とりあえず、いろんな声が混ざっていて何も聞こえない、聞こえたくない。

……バカみたい。

 私は、どこの輪に入ることもなく、重い足を運んで、自分の席に歩く。それほど遠くないはずの席が遠く感じる。

 席に着いてから、教科書類をカバンから引き出し、机に入れる。

ホームルームの予鈴まであと15分。

 もう少し遅めに来れば良かった、とクラスメイトの雑音(こえ)に耳を塞ぎ込むように、机に突っ伏す。


「……あ、天野さん」

 少しだけ寝落ちしていたみたいだ。クラスメイトに声をかけられ、周りを見る。

 ホームルームはまだ始まってないようだ。時計を見ると、あと4分ある。

 だとしたら、なぜ私なんかに声をかけてきたのだろうと思い、声の主の方を見る。顔も名前も覚えてないけど、クラスメイトは私の顔を見るなり、眉尻を下げて、少し身を引いた。

「あの、先生に数学のノートを集めるように言われたんだけど…」

 どうやら、学級委員だから先生に頼まれた物を回収するべく話しかけてきたのか。私は、ようやく彼女の腕の中に数冊の数学のノートがあることに気がつく。

 机の中を漁り、数学のノートを見つけ、「……はい」と愛想のない声と共にノートを突き出す。

「う、うん。ありがとう」

 ノートを受け取ると、せかせかとノートを持ったまま友達のいる方に歩いて、コソコソとなにかを話し始めた。

『睨まれなかった?』
『めっちゃ睨まれた』
『感じ悪いね』

 どっちがだよ。全部聞こえてるって。