堅いパンを噛み締めながら、ファルサーはふと、自分が一人で食事をしていることに気が付いた。
「あなたはもう食事を済ませたのか?」
「必要無い」
「なぜ?」
「君に食事をしろとは言ったが、私を質問攻めにしろとは言ってないぞ」
ずっと自分の手元だけを見て作業をしていたアークが、顔を上げてファルサーを睨みつけてくる。
「質問攻めにしているつもりは無い。ただ、あまりにも不思議な…常識から外れた返事ばかりするから、つい訊いただけだ」
「君の常識が全てに通用しないと、考えたことは無いのか」
「確かにここの状況からすれば、僕の常識が当てはまらないのは当然だと思う。だが、飯を食う必要が無いなんて、僕以外の誰にだって当てはまらないだろう」
「それは "人間の常識" だ、私には関係無い」
アークの答えに、ファルサーはびっくりした。
「待ってくれ、それではあなたはまるで、人間では無いみたいじゃないか」
「私は人間では無い。町で、そう聞いてきたのではないのかね?」
ピシャリとした口調で言われたその態度より、言葉の内容に衝撃を受ける。
町の老爺はアークのことを "山の精霊の加護を受けた長命の者" と言った。
学の無いファルサーでも、世界を維持するために六柱の精霊族が存在することは、当たり前の常識として知っている。
所属する国や、暮らす地域によって、宗教観や信仰する対象が違っていたりもするが、魔法を行使できるのは精霊族が存在するからだ、という程度の知識は、一般的な常識だからだ。
だが精霊族は幻獣族と同様に、異形の超越せし者であり、一般的にはヒトガタをした人間を超える生命…つまりヒトならざる者は、おとぎ話にしか存在しないと言われている。
故にファルサーは、アークのことも風変わりな魔導士なんだろうと思っていた。
「あなたは……ヒトならざる者なのか?」
「だから、なにかね?」
「能力値は人間を上回るのか?」
「だから、なにかね?」
「魔力も高い?」
「だから、なにかね?」
「僕と同行願えないだろうか?」
唐突な申し出に、アークは絶句したようだった。
実を言えば、それを口にしたファルサー自身も驚いていた。
だが、アークの存在が本当にヒトならざる者なのだとしたら、これは千載一遇の機会でもあった。
「突然こんなコトを言われて迷惑なのは充分承知してる。だがあなたが言った通り、僕に科せられた命令は、物好きを通り越した無謀な命令だ。おとぎ話に出てくるような "ヒトならざる者" の手でも借りねば、達成は不可能だと散々言われてきた。ここであなたに出会えたのは…」
「冗談じゃない!」
バンッと、アークはテーブルを叩いた。
ファルサーは黙ったが、それでもジッとアークの顔を見つめ続けている。
「私が君に同行する、義理は一切無い」
「無理な頼みだと解っている」
二人はしばらく互いを睨み合っていたが、やがてアークのほうが視線を逸らし、部屋から出て行ってしまった。
「あなたはもう食事を済ませたのか?」
「必要無い」
「なぜ?」
「君に食事をしろとは言ったが、私を質問攻めにしろとは言ってないぞ」
ずっと自分の手元だけを見て作業をしていたアークが、顔を上げてファルサーを睨みつけてくる。
「質問攻めにしているつもりは無い。ただ、あまりにも不思議な…常識から外れた返事ばかりするから、つい訊いただけだ」
「君の常識が全てに通用しないと、考えたことは無いのか」
「確かにここの状況からすれば、僕の常識が当てはまらないのは当然だと思う。だが、飯を食う必要が無いなんて、僕以外の誰にだって当てはまらないだろう」
「それは "人間の常識" だ、私には関係無い」
アークの答えに、ファルサーはびっくりした。
「待ってくれ、それではあなたはまるで、人間では無いみたいじゃないか」
「私は人間では無い。町で、そう聞いてきたのではないのかね?」
ピシャリとした口調で言われたその態度より、言葉の内容に衝撃を受ける。
町の老爺はアークのことを "山の精霊の加護を受けた長命の者" と言った。
学の無いファルサーでも、世界を維持するために六柱の精霊族が存在することは、当たり前の常識として知っている。
所属する国や、暮らす地域によって、宗教観や信仰する対象が違っていたりもするが、魔法を行使できるのは精霊族が存在するからだ、という程度の知識は、一般的な常識だからだ。
だが精霊族は幻獣族と同様に、異形の超越せし者であり、一般的にはヒトガタをした人間を超える生命…つまりヒトならざる者は、おとぎ話にしか存在しないと言われている。
故にファルサーは、アークのことも風変わりな魔導士なんだろうと思っていた。
「あなたは……ヒトならざる者なのか?」
「だから、なにかね?」
「能力値は人間を上回るのか?」
「だから、なにかね?」
「魔力も高い?」
「だから、なにかね?」
「僕と同行願えないだろうか?」
唐突な申し出に、アークは絶句したようだった。
実を言えば、それを口にしたファルサー自身も驚いていた。
だが、アークの存在が本当にヒトならざる者なのだとしたら、これは千載一遇の機会でもあった。
「突然こんなコトを言われて迷惑なのは充分承知してる。だがあなたが言った通り、僕に科せられた命令は、物好きを通り越した無謀な命令だ。おとぎ話に出てくるような "ヒトならざる者" の手でも借りねば、達成は不可能だと散々言われてきた。ここであなたに出会えたのは…」
「冗談じゃない!」
バンッと、アークはテーブルを叩いた。
ファルサーは黙ったが、それでもジッとアークの顔を見つめ続けている。
「私が君に同行する、義理は一切無い」
「無理な頼みだと解っている」
二人はしばらく互いを睨み合っていたが、やがてアークのほうが視線を逸らし、部屋から出て行ってしまった。