『これっ、ジェラートはどうしたのじゃ!?』

 部屋に入ってきたマハトが、大きな黒いマントのような物を着た、背の高い人物を床に降ろしているところに、タクトが()いた調子で訊ねる。
 が、マハトにはタクトの声は聞こえない。

「マハさん、あの子は?」
「羽ばたきと足音が聞こえたので、追える足音を追ったんだが。子供は一緒じゃなかった」
『追う相手が間違っておるではないかっ! 役に立たない残念サウルス野郎め!』
「いや、暗闇で飛んでる敵は追えないでしょ。片割れだけでも、捕まえられるのはすごいって」
「クロスさん、タクトと言う人は、まだこの部屋に居るのか?」
「うん。居るよ」
「いろいろ聞きたいことがあるんだが、タクトは俺の質問に答えてくれるだろうか?」
『おいヘタレ、そこなサウルスに短剣を渡すのじゃ!』
「え、コレ?」
『そうじゃ、早く渡せ!』

 クロスは少年がソファに置いた短剣を手に取ると、マハトに差し出した。

「なんか良くワカンナイけど、タクトさんが、コレをマハさんに持って貰えって」
「俺に?」

 (わけ)が解らないながらも、マハトはクロスから短剣を受け取る。

『どうじゃ聞こえるか! この残念サウルス!』
「うわ、急に頭の中に声がしてきた…。クロスさん、タクトという人は本当に少女なのか? 声音があまり少女らしくないんだが?」
『ヘタレと話しておるヒマなぞ、ないわっ! 無神経で残念なサウルス如きに、わざわざこうして話しかけてやっておるのじゃ。儂の声を聞けい!』
「そんなに大声を出すな。うるさいばかりで、何を言ってるのかわからんぞ」

 マハトの苦情に、タクトは『てっ!』と舌打ちのような音を返す。

『本来なら、貴様らのような無知蒙昧の輩なぞと関わりになりたくないが。今は状況が切迫しておる。致し方ない。ブツブツ言っておらずに、儂に手を貸せっ!』
「とても人に頼みことをしている(もの)の態度とは思えない…」
「マハさん、言いたいコトは解るケド、小さい子が攫われたんだし…。それにマハさんには視えてないだろうけど……」

 クロスはその先のセリフは、タクトに聞こえないようにマハトの耳にコソッと告げた。

『コソコソ話すなと言っておるだろうが!』
「なんだ、タクトは困って泣いてるのか…」
『このヘタレ! ホラを吹くでないわ!』

 タクトはクロスの尻のあたりを蹴っ飛ばすような仕草をした。
 だがクロスの言ったことはあながち嘘ではなく、態度の乱暴さとは裏腹に、タクトが泣き出しそうなほど切羽詰まった顔をしているのも事実だった。

「とにかく、マハさんが捕まえたコイツ…」

 クロスはそこで気を失っている曲者を引っ張り起こし、顔を見てアッと声を上げた。

「知ってる(もの)か?」
「コイツ、アルバーラの弟子だ…」

 クロスがぼそりと呟いた。