左遷されたチート錬金術師の最強領地経営〜劣悪な辺境に追放されたけど、何故か次々と俺を追って王国中の美少女たちや、慕ってくれる仲間がやってきた結果、王国を超える領地が出来上がってしまったんだか?〜

恐る恐る話しかけてきた領民たちと会話して、少しは打ち解けられたと思う。

僕は何をやってますだの、領主様は何故追放されてしまったのかだの、お互いのことを聞きあった。

そんなこんなで過ごしていると、ガークが髪をガリガリとかきながら、近づいてきた。

パッと見、体調は大丈夫そう。エリクサーぶっかけたし、ほりゃ万全になってなきゃ詐欺エリクサーならぬ詐欺クサーになってしまう。

「わりぃ、手加減があんま出来ずに大怪我おわせちまったな」

生まれてこの方手加減なんてほぼせずに、一生懸命生きてきたから、やわな手加減になってしまった。不手際で傷つけてしまったのだし一応謝っておく。

けどこいつが喧嘩ふっかけてきたんだし、多少のダメージは覚悟していたはずだ。なんならこいつ殺しにきてたよな?

「あ、あれで手加減してたのか!? 」

「領主様……なんてお方なんだ」

「ん……? まって!? 手加減してたってことは別々の魔法を二つ同時に展開してたってことよね!? 魔法二重展開なんて初めて見たわ!? 」

「二重展開ってよそでいう冒険者だとSランク級じゃないか! 」

「いや、ちげぇ……3つだ! 最後のガークを受け止めた白いふわふわとしたアレも領主様が使った魔法だ! 」

残念! 正解は4つです! なんてバカ正直に伝えたら卒倒してしまいそうな勢いだ。とてもじゃないが言えない。
へ? なんで同時並行で魔法を使っただけでこんなに騒いでるんだ?
もこもこ魔法は別に大した魔法じゃないし、子供でも簡単に覚えれそうなんだけどな。ナナンちゃんあたりに教えてたら数十分でモノにしそう。

すげーって騒いでる領民たちの近くで俺の右手をじーと見てるナナンちゃん。
もしかして興味あるのだろうか? 今度教えてあげよう。

「てめぇ……いやレン様、俺なんかに伝説の薬ポーションであるエリクサーを使ったのはなんでなんだ? 俺はレン様を殺す覚悟で攻撃したんだ、殺されても文句は言えない。だというのに、周りに影響が出ないようにバリアを展開し、魔法を打った際には俺を案じて手加減をして更にそこから威力が減少するような魔法までかけて……なんでそこまでするんだ? 」

質問が長いし多い……。全部ぶっちゃけどうでもいいでしょうが。ありがとう、はい終わり。これで済む話なのに。

めんどくせ!!

「はぁ、仮にも俺は領主なんだぞ? 楯突いてきたからって領民魔法で爆殺したら大問題だろ。正直最初はやりすぎたって思ったくらいだ」

「そ、そうかよ……けどよ! エリクサーをあんな怪我ごときになんで使っちまうんだよ!? レン様が自分のために持ってたんじゃねぇのか」

そういえばガークはキラキラ石を見れてないから、俺が大金はたいて自分の護身用に買ったモンだと勘違いしてんのか。

「いや、ぶっちゃけエリクサーなんていくらでも作れるからそこはなんも気にする必要はないぞ。あ、他のみんなももし怪我したり体調が悪くなったら俺に言ってくれ。直ぐにエリクサー作るからさ」

伝説のポーション、万能秘薬エリクサー、その名の通りの代物。酒飲みまくって二日酔いになった朝とかにエリクサーを1個飲んだら、見違えるくらい頭がスッキリすんだよな。

毎日の生活の始まりにエリクサーを飲めば皆、良い一日を過ごせるのでは……?

「よし! これから領民全員にエリクサーを配って毎朝飲んでもらおう!」

「「「いやいやいや!? 何言ってるんですか領主様!? 」」」

目ん玉飛び出るんじゃないかってくらい驚いた領民たちは、慌てふためきながら、NOを言ってくる。

そんなにダメらしい。

「いい案だと思ったんだけどなー」

「「「そういうことじゃなくてですね!! 」」」

この後も結局認められることはなく、毎朝エリクサー生活は却下されたのであった。

くそぉ……絶対いつかリベンジしてやるからな!!




んで、話が少し脱線したが元に戻す。

「毎朝全員にエリクサー渡せるくらいに、これを作るのは楽な仕事だからガーク、お前が何か気にする必要は無いし、引け目に思うこともねーからな」

あ、それと。

「後、お前にレン様って呼ばれるとなんかむずがゆいし、柄でもないだろうから好きに呼んでいいぞ。最初みたいにてめぇ、でもいいしな」

こんな金髪半グレみたいないかつい容姿の男に様付けで呼ばれるのはなんかね。

「さ、流石に領主サマと認めた男をてめぇ呼ばわりは他のヤツらにぶん殴られちまうわ。ほら見ろレン、トメリルが鬼の形相で俺みてんぞ」

あ、ほんとだ。背後に鬼がいる。威圧感がパない。
視線だけでガークを射抜いて殺しちまいそうだ。

「おーレンで全然いいぞ。認めてくれたってことでいいんだよな? 」

「あぁ、流石にこの短時間でこんなすげぇの見せられたら認めざるをえねぇよ。これからヘレクス領と俺たちをよろしくな、レン! 」

「任せとけ! 一緒にさいっこうの領地にして、支援してこなかった国や領地どもを見返してやろうな! 」

固い握手を交わし、ガチっと握り合う。

「おめーんら中でまだレンを認めねぇ、なんて戯言(たわごと)抜かすやつぁ、居ねぇよな? 」

頷く領民。ガークの取り巻きや、さっきはガークに賛成してた者も皆が満場一致で頷き、拍手をしてくれていた。

こうしてこの場の全員に笑顔で認められて、無事正式にヘレクス領主となったのであった。
俺、レンは生まれ育った王国を、国王である父親から左遷され辺境の闇のスラム領とまで蔑称されるやばい領地の領主に就任することになってしまった。

色々あって疑心暗鬼になっていた領民の一人に喧嘩をふっかけられるがなんなく倒し、えらく驚かれた!

そしてそいつにも認められた結果、多分領民全員?認めてくれた。

んで今は俺の就任祝いが開かれている。

「レン様、どんどん食べてくださいね! 」

「領主様これからこの領地をお願いしますね」

「おー、任せとけ。だけど皆も協力してくれよ? 意見もバシバシ言ってくれていいからな! 」

「さ、流石だ……今までの領主とは全然違う」

「前の領主ってどんな感じだったん? 」

「えぇっと……」

領民の一人が教えてくれたのはこんな感じ。

お手上げ状態ででてったとか、近くの森で魔物に出会ってビビり散らかして一目散に逃亡して行ったとか。
またある領主はトメリルに手を出そうとしてガークにボコボコにされて近くの森に投げ入れられたらしい。

確かにトメリル綺麗だもんな、スタイルも抜群だし。
変な気でも起こしてしまったのだろう。

さっきから森という単語がよく出てくるがなんなんだ?
ここからも見えるあの森のことだろうか。

「冒険者ギルドのランクでいえばSランク以上の魔物が蔓延っている危険な森なんです。瘴気も強くて入口付近ですら、体制のない人間であれば吐き気や嘔吐をしてしまうほどに濃いです。領主様も間違って立ち入ることがないようにお気をつけてくださいね」

そこまで濃いのか。けど俺の知り合いのアイツなら「あれ? ちょっと空気がおいしくないね? 」とかいいながらケロッとしてそうだな。

ついでに気になったことも質問した。

「その魔物が降りてきたらどうするんだ? 」

「今までそんなことなかったので……私がヘレススに来て十数年経ちますが、一度もなかったです。とと、祝いの場で辛気臭い話題をして申し訳ありませんでした。私はこれで」

今までに前例が無いから安心……それは裏を返せば、起きてしまったら何も対処法を知らないという訳だ。

もしそうなってしまった場合は領主の俺が、領民を守らなければならない。

これはあの森の調査もして行かなければならないな。


歓迎会は夜遅くまで続いた。
ぶっちゃけ俺より領民たちの方が飲み食いしてた。

けれども皆笑顔でどことなく安心していた。

トメリルもそうだ。最初会った時は顔がやつれて、元気も無さそうだったが今は飲み物片手に、リーナと談笑していてずっと笑顔だ。

リーナは相変わらずの……いや、彼女も笑顔だった。
ガークも取り巻きも、領民みんな。

この笑顔と空間を守りたい、そう心から思えるひとときとなった。


さて、そんな歓迎会もそろそろお開きの時間が迫ってきた。
ぼちぼちと片付けが始まったので俺も自分の皿と、隣ですやすやと寝息をたてているリーナの分を手に持ち、回収してる場所に行く。

皿を手渡すと何故かえらい驚かれた。

「はーい、ありがとう……って領主様!? 領主様は座っててください!! 回収は私たちの仕事ですし、わざわざ持ってこさせるなんて! 」

「い、いや俺もこの領地の一員だからさ、手伝うよ。それに皆が片付けしてる中俺だけあぐらかいて座ってるのは嫌だしな」

「なんと素晴らしいお方なんだ……」

「今までの領主とは雲泥の差だな」

「比べることすら烏滸がましいかもしれないですね」

当たり前のことしただけなのにめっちゃ褒められる。
俺、自分で食った後の皿片付けただけだぞ……。
今までの領主まじでどんだけヤバい奴揃いなんだ!?

そして片付けが終了した。
何回も止められたけど、やっぱ最終的には褒められる。そんな感じのが何回か続いた。

褒められるのが嬉しくて、張り切ってしまった。
あっちじゃ貶されることの方が多かったからなぁ。あいつらは良く褒めてくれたけど、やっぱ血の繋がりのある人間、しかも親族ほぼ全員に無能だ何だと言われるのは心にグサッとくるものだ。

ここに来て解放されたことで、新たな視野が広がった。
それでいてやっと分かったことがある。

もしまたあいつらに会える日が来るのなら、一人一人に感謝、そして謝罪を伝えたい。

ぼーっとそんなことを考えてると、トメリルが肩をポンっと叩いていた。

「やっと気づかれましたか、呼んでも中々返事がなかったので心配したんですよ! 」

「あぁ、すまん。ちょっと王国のやつらを思い出してた」

「そうでしたか……今日はもう夜遅いので良ければ、また今度にでもレン様のお話を聞かせて貰えませんか? さっき聞かせていただいたご友人とのお話の続きも気になります! 」

さっきの宴の席で、酔ってちょこっと話をしてしまったのだ。

「あんな話でいいならまたいくらでもするよ」

「嬉しいです! では、レン様の屋敷を紹介させていただいて、今日はお別れですね」

案内される。夜風がほんのり涼しく、酔いも少し覚めた。

他の家々より一回りも二回りも大きく、これぞ屋敷!と言った感じの大きさの建物の前に立ち止まる。

「こちらがレン様の……領主の屋敷です」
マシな部類ではあるが、ボロい。
一応領主の屋敷だからデカイ、ただそれだけ。

ドラゴンの襲撃でもあれば一瞬で崩れ落ちそうだ。

「レン様、ドラゴンが来ようものなら、王国の建物でも一瞬で半壊しますよ」

うーん、けどここはSランクの魔物が蔓延っている森がすぐ側にあるんだろ? 今まで前例が無いとはいえ、魔物なんていつ襲ってくるか分かったものじゃない。

考えれば考えるほど不安になってくる。

ここは領主として何か対策を考えておかないとな。

トメリルが中も案内してくれたんだが、外見通り中は色んな部屋があり、紹介された中には不気味そうな部屋もあった。

幽霊とかいたりしてな、そんなわけないか、あはは。

「私が使用してた部屋しか掃除が行き届いてないので、明日にでも掃除させてもらいますね」

「いや大丈夫だ。自分でなんとかできるから」

「領主様の御手を煩わせる訳には……」

「そうですよ。それに掃除などはメイドの仕事ですよ!! 私にお任せください」

「しかしだな……」

俺的にはここまでだだっ広い屋敷だと、いくらメイドとはいえ疲れるだろうし、働かせすぎになると思うんだ。

ここはもう先手必勝で、明日にでも先にとあるものを作ってしまおう。

「私も手伝わせて頂きますからね! それでは今日はゆっくりとお休みになってください! 」

あれ? そういえばトメリルは何処に行こうとしてるんだ?

「へ? とりあえず今日は友達の部屋にでも泊まろうかと思ってたんですが」

「ならここの一室をトメリルの部屋にしないか? もちろんトメリルがよかったらの話だが……」

こんなあって一日も経っていない、信用に足りないような男とひとつ屋根の下で生活することになるのは嫌かもしれないが、一応提案してみる。

領主のいない間ずっと使ってきた我が家を、領主が来たから明け渡す。そんな事普通嫌だろう。

俺だったらそんなのごめんだ。

「い、いいんですか!? し、しかし対外的に見たら領主と同棲してる領民に見えてしまうというか、いや実際同棲ですし!? 皆がなんて言うか」

「元々トメリルの家みたいなもんなんだから誰も不思議には思わないと思うんだが……」

「そういう問題ではありませんよ。すいませんトメリルさん、レン様は天才ではありますが、こういう分野はからっきしなので。私が何回も…何回も……」

がくっ、と肩を落とし、ぶつぶつと何か小声で呟いている。

こういう分野ってなんだ? 俺なんか変なことでも言ってしまったのだろうか。

「リーナ様……く、苦労されてきたのですね」

「トメリルさんもこれから苦労することになりますね」

「えっ!? あっ、いやわ、私はまだ!? 」

「まだ、ですか。まぁいいです。これから同じ家に住む仲間通し仲良くしましょうね、もちろん別の意味でも仲間ですからね」

「敵では無いんですか? あれ、ごにょごにょ、ライバルというか」

「その点は心配ないですよ。なぜなら」

「なぜなら……? 」

リーナがこちらを向き、それに合わせてトメリルも僕の方に向き直る。な、なんだ。これから何が起きるっていうんだ。

「レン様、レン様の夢を今一度お聞かせください」

なんで俺の夢? ま、いっか。

「ここヘレクス領を世界一の領地にして、ぐーたら過ごすこと! 」

「あら? それは今決めた夢が加わってますよね? 」

む、むぅ。流石専属メイド。トメリルの手前、少しかっこつけた事がバレてしまった。けどこれも本当の夢だからな。

「俺の錬金術で何もかも全自動にして、寝っ転がったまま神になりてぇ! 」

「それも言ってましたが、なによりの夢を仰ってませんよね? 」

「え? そ、ソンナコトナイヨー」

「レ・ン・様・? トメリルさんが居るからカッコつけてるのかもしれませんが、今言ってきた夢だけでも全部かっこよくないですからね? 」

そ、そそそそそんなことあるはずないだろ!?
ぐーたら領主、実は世界最強。とかいいじゃん!?
全人類(男)の夢みたいなもんだろ!!

タイトルに起こしてみるぜ?

「ぐーたら領主、実は世界最強〜王国から左遷された錬金術師だけど、楽に生きたい一心で錬金術フル活用して、魔道具作ったり魔法自作したりしてたら、世界一の領地が出来上がっていた。今更戻ってこいと言われてももう遅い〜」

くーっ!! めっちゃ読んでみたいだろ!?

「あの、申し上げにくいのですがネタバレしちゃってますよ」

「これからそうなっていく作品なのに」

「メタいよ!? ストーリーをタイトル化しちゃった俺が言えたことじゃないかもしれないけど、メタいよ!? 普通、この人何言ってるんだ? って流すとこだぞ!? 」

「ではメタい話はあまりしない方向にします」

もう終わり!! 解散!!

「それで逃げれたとでも? ちゃんと夢、答えてください」

「気になるので教えて欲しいです!!」

「しゃーねぇなー」

トメリルに言ったらドン引きされそうだから辞めておいたのに……。もうどうなっても知ったこっちゃない。

「ハーレムを作ってぐーたらしてても褒められる最高な生活がしたい…… 」

あぁ……終わった。せっかく少しでも信用してくれてただろうに。こんな事聞かされたら絶望だろう。
トメリルの反応は思っていたのと全然違った。

「そうですか……なら安心しました!! 」

むしろとびっきりの笑顔だった。

「だから最初から言っていたでしょう。それでは今日はここら辺にして寝ましょうか」

「え、ちょ、なんでアレ聞いて安心するの」

そう聞こうとしたがリーナはトメリルを連れて、さっさと出ていってしまった。

ぽつんと一人取り残された俺はこう呟いたのであった。

「明日から頑張ろ……ぐーたら生活のためにも」

ベットにダイブする。

はぁ〜今日は色んなことがあって疲れた。

今日は安眠魔道具を使わなくても、ぐっすり寝れそうだ。
朝、目が覚めると知らない天井だった。

「そんな寝ぼけたこと言ってないで早く起きてください」

「ええと、ここは俺の部屋のはずだが」

まだスッキリとしていない、ボサボサとした頭をかきながら思考を巡らせる。

「メイドなのですから起こしに来るのは当然でしょう。それに昔から私が起こしてますよね? 」

それはそうなんだが。
確かにいつも、というか毎日リーナに起こしてもらっていた。だけど今までとは違う状況なのだ。

「領主になったからカッコつけたいとかそんな感じですか」

違う、違うんだ。

「じゃあなんですか」

「なんで俺のベットん中に一緒に潜り込んでんの? 」

「五回起こそうとしましたが、頑なに目を覚まさないので、仕事だけ済ませてから私も一緒に寝させてもらいました」

「一緒に寝させてもらいましたってお前……こんな場面トメリルに見られでもしたらなんて思われるか」

「その心配は不要ですよ」

はて? なんでそうキッパリと言い切れるんだ? 疑問に思って聞こうとしたが、するりとベットから抜け出したリーナは、

「朝食の準備は済ませてますので身支度が出来次第、おいでください。私はトメリルさんを起こしに行ってまいります」

と部屋を出ていってしまった。


身支度を済ませて食堂に向かい、リーナお手製の朝食に舌鼓を打った。トメリルは出来栄え、そして味に驚いてた。

今日の朝食は二枚のパンにハムエッグをサンドしたものだった。
トメリルは、「こんなにも美味しいハムエッグは初めてです!! これなら毎日食べても飽きませんし、お腹もふくれます」と大絶賛していて、リーナも満更でも無さそうだった。なんならドヤ顔だった。

朝食後はちょっとした休憩時間ということで、各々休むことになっていたので、一度自分の部屋に戻った。
しかしそこで食堂に忘れ物をした事に気づき、とんぼがえり。

食堂では食べ終わった皿を洗おうとしているリーナの姿があり、声をかけた。

「休憩時間だし後でいいぞ。一旦お前も休め」

「いえしかし、やりきってしまわないとなにかむず痒いというか……」

そうだった、この子完璧メイドだった。

「なぁリーナ、メイドの仕事を好きでやってるのは俺も知ってる。だけど流石にこのだだっ広い屋敷全部をお前に丸投げするのは違うと思うんだ」

「メイドを増やす……ということでしょうか? 」

「あーそれも考えたんだが、ひとまずは、直近では使わない部屋も多いだろうし、慣れない環境になったっていうのに、初めましての人材を更に増やしてストレスになってもいけないと思ってな。まだ増やさないよ」

「ではどうするのですか? 」

「ふっふっふ、俺は錬金術師だぞ? 」

俺がそう言うと、はっ!とした様子でこちらを見る。

「ま、まさかあの皿洗いゴーレムですか!? 」

「そうそれ! 」

王国にいた時の話だが、メイドはかなりの人数居た。
かなりの人数とはいっても、仕事が大変なことには変わりない。

朝から晩まで家事全般から庭仕事まで色々。
自分たちのために精一杯働いてくれているメイドたちの仕事を少しでも減らして楽が出来たらなの一心で俺は、錬金術でとあるモノを作り上げた。

それがリーナからも出た【皿洗いゴーレム】。

錬金術を発動させると、形が形成されていき、木製の可愛らしいゆるキャラが現れる。

「よし、【皿洗いゴーレム】! お前は今日からこのキッチンの皿洗い担当だ。頼んだぜ」

俺の言葉にゴーレムはらじゃ!と敬礼すると、早速皿を洗い始めた。

その光景を傍で見ていたリーナは懐かしそうな表情を浮かべていたのであった。

こんなんでメイドたちの負担が軽減されたかは分からないが、皆感謝してくれたし、作った自分としても笑顔でお礼を言いに来てくれて、嬉しかった。

「そーいやこれも、父上たちは褒めてくれなかったなぁ」

「あの方たちはレン様を意地でも認めようとしませんでしたもんね。そのせいでレン様はお気づきじゃないかも知れませんが、レン様が作成したモノや魔道具などは全部、使い手への気遣いが篭っていて、使い手は皆喜んでいたのですよ」

「いやいやそれは買い被りすぎだ。案外皆スクラップにしてるかもしれないぞ」

昔作ったモノの中には、今じゃ到底満足出来ない出来栄えのモノだってかなりあるはず。それを全員が全員喜んで使っていたとは考えにくい。

「なんでレン様はこうなるんですかね……親や兄弟があの方たちで無ければ、少しは自信があったでしょうに」

こう話してるうちにも、皿洗いゴーレムは全ての皿を洗い終えていた。

「ほんとどんな仕組みなんですかこれ。このゴーレムだけでも他の錬金術師やゴーレム使いは目ひん剥いて驚きますよ、この光景目にしたら」

「こんくらいだったら少し練習すれば誰でも出来るようになるよ。俺がそうだったんだから」

「だからレン様はそこらとは違う天才だと何回も言ってますよね!? 普通出来ませんから! 」

「いや出来るってー」

言い争っていると、騒ぎがとメリルの部屋にまで聞こえたのか食堂にやってきていた。

「どうされたのですかーーーってなにこれ!? 」

「こいつは皿洗いゴーレムだ。見ての通り皿洗いと、洗い終わった皿を乾かして、水滴をふき取って棚に収納までしてくれる」

「万能すぎませんか!? ゴーレムにそこまで出来るんですか!? そんな細かい命令組めるんですか!? というかゴーレム使いでもあったんですか!? 」

「俺はゴーレム使いじゃなくて、ただの錬金術師」

「錬金術師ってここまで出来ちゃうんですか……初耳ですよ! 」

「トメリルさん、惑わされては行けません。レン様が天才過ぎるが故に為せるだけであって、そこらの錬金術師は到底不可能です。もう一度言います。レン様が天才なだけです」

「そ、そうですよねリーナさん!! 普通無理ですもんね!? レン様が天才なんですね! 早速領民の皆にもこの件を伝えないと! 」

「いやぁ、照れるなぁ。お世辞でも嬉しいよ。二人ともありがとう」

「「ですからお世辞ではありません!! 」」
一休みした後、領主の部屋にて。
俺は頭を抱えていた。

とりあえずそれっぽいことをしようと、席に着いたはいいんだが何をすればいいのやらさっぱりだ。

「失礼します! 」

トメリルが部屋に入ってきた。

「ちょうど良かった。どんなことをすれば良いのか教えて欲しかったんだ」

「そうですよね! レン様は領主生活1日目ですし、今日はゆっくりしてもらおうと思っていたのですが、何せ緊急事態でして」

「な、なんだ緊急事態って!? 」

部屋に入ってきた際に微かに息切れを起こしていたし、緊迫した面持ちだったので、なにかあったのだろうとは思っていたが緊急事態だとは。

「そ、それが……魔物が森から降りてきて、領地付近に近づいてきているのです!! 戦闘能力の無い者は家から出ないように通達し、狩りに出ていた者には戻ってくるように連絡を入れに行きました」

「とりあえずそこに行く、案内してくれ」

「わ、分かりました!! こちらです」

まじかよ、嫌な予感はしていたが、まさか栄えある領主就任一日目にやってくるとは。

しかもトメリルの口ぶり的に、本当は今日は一日休みっぽかった。

魔物め、俺の貴重な休みを潰しやがって! 絶対許さん!


外に出ると剣や杖などを持った領民たちが、入口付近に集まっていた。

魔物はちょっとハナタレ箇所に居て、こちらに近づいてきている。もう少し遅れていたら戦闘が始まっていただろう。

俺がやってくると領民たちが声を上げた。

「りょ、領主様!!? 」

「領主様は錬金術師であらせられましたよね!? 危険ですので、ここは私たちにお任せ下さい」

「ば、バカ何言ってんだお前! ガークとのあの闘い見てねぇのか? 領主様は魔法も一流だったんだぞ! 」

「カッコつけてねぇでここは領主様に任せた方がいいだろ! 」

け、喧嘩すんな……。魔物も呆れてるぞ。
てか背中を向けるなよ、殺されるぞほんとに。

「てめぇらレンが来て安心するのはいいけど、敵に背ぇ向けんなって前も言っただろ」

「ガーク! 」

ガークがマトモな事言ってる……。初対面があれだっただけに意外だ。

「喧嘩うってんのか」

「すまんって!! 」

怖! 心の中読まれた!?

領民たちの合間を縫って1歩前に出て、【アイテムボックス】から【魔剣】を取り出す。

右手には禍々しいオーラを放っている黒紫の大剣。
こいつが【魔剣】羅刹(らせつ)だ。

ひと振りするだけで大抵の魔物は倒せるし、この魔剣の効果で倒したヤツを【吸収】してそいつが持ってた効果が付与されるというとんでもない代物だ。

なんでこんな武器を持っているのか?と思うだろう。

「な、なんだあの武器」

「ねぇ、めっちゃオーラ放ってるんだけど気の所為……よね? 」

「あれって封印された伝説の魔剣に似てる気が……」

「あの1000年前に魔王が使っていたとされる、あの!? 」

「あれだけ禍々しいオーラが放たれてるんだ、間違いないだろう」

「でも、ならなんで領主様が持っているの? 王国で厳重に保管されてるはずじゃ……」

「確か王国の中でもトップクラスの、王国結界魔術師が封印を厳重な結界を施したと話題になってたよな」

話が盛り上がってきており、この場の全員の顔が俺の右手にある【魔剣】に釘付けとなっている。

「あーこれ気になる? 」

「「「そりゃ気になりますよ!? 」」」

そうかー、気になっちゃうかー。
あんま持ち主にバラすなって言われてたんだけどな、なんかノリで取り出しちゃったし、説明するしかないよなー。

「一つ一つ質問に答えてくけど、最初に出てきてた通りこれは【魔剣】であってるぜ。正式名称はなんか長ったらしい横文字だったけど、長くて呼ぶのがめんどくせーから、羅刹(らせつ)って俺は名付けた。んで次、1000年前に魔王が使ってた云々、これも正解。王国で結界魔術師によって封印されていたのもあってる」

「で、では何故レン様がお持ちなのでしょうか? 」

おずおずと聞いてくる一人の領民。

「その結界魔術師の長が俺の誕生日にプレゼントとしてくれた」

キミなら扱えるだろうし、ぶっちゃけボクの結界魔術よりキミの【アイテムボックス】の方が安全だからねっ♡とポイッと渡された。

「プ、プレゼントで魔剣を貰ったぁぁぁ!?!? 」

「そ、その国王様から許可は出たのですか!? 」

「んや、多分無断だぞ。地下の奥深くの部屋に封印されてたんだが、親父も含めてほぼ誰も近寄ることは無かったからなー、今も気づいてないんじゃねーかな。あ、おめーらもこれ内緒にしててくれよ? 」

ソフィアちゃんが怒られちまうからな。
あ、話の結界魔術師長の名前ね。

「も、もももももちろんです!! 」

「まず王国に近寄ることが無いので!!! 」

「今日見た光景は墓まで持っていきます!! 」

クビがもげるんじゃねぇかってくらい頷いている。

んじゃ、話も終わったし魔物ワンパンしますか!

あれ? あんだけ大口叩いて「魔物に背中を見せるな」なんて言ってたのにお前もじゃねーかって?

俺には背中にも【眼】があるから見えてるんだぜ。しかも普通の【目】じゃない特別なヤツがな。

これもめっちゃ強い効果あんだが、今回は使うまでもない。

「領主様! 後ろ!! 」

「ん? 大丈夫だ、視えてるぜ」

後ろに手をやり、襲いかかってきていた魔物の頭を掴む。そして、空中に投げ込む。

「グガァァァァァ」

そして魔剣をひと振り。それだけで魔物は胴体から真っ二つになり、ボトンボトンと落ちてきた。

「え、弱くね? 」

Sランク級の魔物なんじゃなかったのか? 明らかに弱すぎるんだが。

Cランクくらいの魔物が森のSランクの魔物に追い出されてこっちにやってきたのかね?

真相はよく分からんが、魔物騒動は一分くらいで終わったのだった。

「えっ……この魔物はまさか……」

魔物の死体を確認していた領民の一人が青ざめた顔をしている。なんだなんだと他の皆も覗き込んでいる。

「この人は【鑑定】のスキル持ちなんですよ〜。目利きが良くて、どんな素材もバッチリ調べれるんですよ。領民全員お世話になってます」

聞いてもないのに近くにいた一人が教えてくれた、ありがとう。

「ま、間違いないです……この魔物は……デスウルフです」

そんな目利きの鑑定士さんが言う。
デスウルフ。その言葉を聞いた瞬間、また領民たちが騒ぎだし、あれやこれや言い合い出す。

「Cランクくらいの魔物だろ? 」

なんでそんなおっかない顔してるんだ、と言おうとしたところを一斉に遮られる。

「Sランクの魔物ですよ!!!?? 」

「噛みつかれたら最後、噛まれた部分から瘴気が身体中に蔓延し死に至る。そんなチートみたいな魔物です!! 」

へぇー、こんな犬っころにそんな能力があるとは思えんけどな。

「戦闘職ではない俺でも倒せたんだぞ? やっぱ見間違いなんじゃないか? 普通のウルフが髪染めならぬ身体毛染めでもして、イメチェンしたんだろ」

「そんなバカな話あるわけないですよね!? 」

「領主様ってちょっと抜けてるトコありますね……」

「無いわい! 」

まったく、失礼な領民だ。この俺がそんな間違いする訳ないだろう。第一Sランクの魔物があんなに弱いかっての。

「それは領主様がお強いからでありまして……」

やだ、勘違いCランクウルフを倒しただけで、強いだなんて言われちゃった!

内心褒められて嬉しい気持ちもあるのだが、流石にCランクの魔物倒してドヤる領主はダメすぎるだろう。

「レン様、屋敷の掃除をしていて遅れてしまいましたが、緊急事態というのは解決されましたでしょうか? 」

お、ちょうど良いタイミングで完璧メイドのリーナがやってきた。

「なぁーリーナ。この犬っころいんだろ? こいつがSランクのデスウルフだってこいつらが騒いでるんだが、違うよな? 」

犬っころをじっと見つめた後、苦笑するリーナ。

「これデスウルフで合ってますよ」

リーナがそう言うと、

「そうですよねリーナ様!! 」

「領主様が普通のウルフだと認めてくれないんですよ!! 」

リーナに詰め寄っていく領主たち。

「いやいやリーナ。冗談だろ……俺がそんな大層な魔物倒せるはずがないだろ」

「何を仰ってるんですか、あなた相当なチート持ちじゃないですか」

「俺はただ魔法と魔道具とスキルが作れるだけだ! チートなんなじゃない! 」

「だからそれがチートなんですよ!? 」

「現に親父や兄たちはけちょんけちょんに貶してきてただろ!! 」

「あんのクソ国王!!! 」

「!? 」

「大体レン様の仰る普通の人間は、魔法を自作することなんて不可能です!! 」

「じゃあ魔道具はどうなんだよ! 作ってるヤツ沢山いんじゃねーか!! 」

「確かに魔道具は造れる方はいらっしゃいますね。ですがレン様が造るようなチート機能付きの魔道具はレン様以外誰にも無理です!!! 」

「じゃあスキルはーーー」

「神以外作れないはずですよ!? てか作れるんですか!? 私、初耳なんですけど!? 」

おおう……。何を言っても直ぐに返されてしまう。
俺たちの押し問答を傍で聞いていた領民たちはというと。

リーナ以上にびっくりしていた。中には顎が外れるんじゃないかと心配になるほど口を大きく広げている人まで。

「あ、あの……領主様……いくら領主様とはいえスキルを創れるなどと口に出されるのは辞めた方が宜しいかと……天使族や教会の人間に見つかれば、即刻クビをはねられてしまいます」

その言葉に深刻そうに頷く皆。
天使族って可愛らしい美少女を想像するけど、そんなおっかなびっくりな性格してんのか。勝手に美少女って予想してるだけで実は筋肉ムキムキのおっさんな可能性もあるけどな。

教会の人間は確かにめんどくせー奴らばっかだったな。
王子の仕事柄、何回か関わったことがあるが、話が通じなかった記憶しかない。女神の像の手に乗せられていた宝玉にヒビが入っていて割れかかっていたから、治そうとしたらドチャクソにキレられて、二度と治してやるもんかと頭にきたことがあった。

あれ放置してたら絶対いつか木っ端微塵に割れてる。

「しかしその件のおかげで聖女様に気に入られたので良かったのではないですか? 」

そう、頑固頭しか居ない教会の中で唯一まともだったのが聖女であるクレニール・スアントル。

宝玉の件で教会の殆どの人間から大目玉をくらい出禁になりかけたんだが、聖女が止めに入ってくれて宝玉が修理されてることを力説してくれた。

俺が何回言っても、「神聖たる女神の宝玉にヒビなど入っているわけが無い」の一点張りだったくせに、あいつらときたら聖女が同じことを言った瞬間、即座に認めやがった。
そして渋々感謝された。

その後、聖女に百回くらい謝られて、制止の声をかけても、聞きゃ、しない。
俺としては聖女に謝られても、ぶっちゃけ気分が優れるわけでは無かったが、その日唯一まともな人間と会話出来た事、俺を庇ってくれた事に感謝する意味で、後日食事の約束をして、その日は解散となったが、なんか普通についてきた。

帰り際話し相手がずっと欲しかったから嬉しいと笑顔で伝えられた俺。

「どうなったんですか? 」

「き、気になります! 」

ありゃ? なんか人だかりが増えてるんだが。こんな話聞くために仕事放り出して集まってきているのか……?

仕方ない、続きを話そう。
いやまじでどうでもいい話だし、なんにもならないが。

「流石の俺もここは何か気を利かせる場面だと思った俺は、錬金術で即座にベアーをデフォルメにした可愛めのぬいぐるみを作ってプレゼントして、顔も見ずにスタコラサッサ家に帰った」

「で、どうなったんですか!? 」

「実は……」

「「「実は!? 」」 」

ごくりと唾を飲み込む音が聞こえるほど、辺りは静かになる。俺の次の言葉を領民全員が今か今かと待ち構えている。

「これつい最近の話だから、なんも進展が無いんだ。しかも追放されたからもう会えん。まず俺が何処に行ったかすら分からんだろう」

まさか俺を追って聖女様がこんな辺境の領地にやってくる訳無いしな。

「これで話は終わりだ! 期待したような話じゃ無かっただろ? ほら、皆も帰った帰った! 俺も帰る! 」

変な話させられたせいで疲れた。

そんなこんなで解散となった。

ちなみにデスウルフは皆で美味しく頂き、爪は武器の加工に使うことになった。

にしてもあの話をしたせいで、聖女が今どうしてるのかが気になってきた。

あんな性格の聖女にとって、あの協会は窮屈なはずだ。いつか嫌になって、他の国の教会に移るかもしれない。

まぁ、こんな辺境に左遷された俺が、聖女と再開する事は無いだろうが……。
「に、ニートルン殿!? 今一度お考え直しを! 」

「いや無理。辞める。ばいばい」

「わ、わたしも辞めさせていただきます……!! ご、ごめんない!! 」

「き、君も辞めるのか!? い、いや、そうか……君はニートルン殿に連れ添ってるからな」


「何故急にそのような事を……給料か!? 給料が不満なのか!? なら上げてやる! 上げてやるから今一度考え直してくれ!! ニートルン殿が居なくなれば、あの図書館は誰が管理をすればいいのだ!? 」

「知らない。そのくらい自分で考えたら」

「せ、せめて!! 何故辞めるのかだけでも教えてくれないか! 」

そこで国王のマサカコンナコトは、ニートルンの口から驚きの言葉を聞くことになる。

「レンの所に行く。ほんとは出ていく初日から一緒に着いていきたかったけど準備があったから数日かかった。そういうことだからばいばい」

「レ、レンのとこだと!? あんな無能のとこに……こほん。レンが向かった領地は、ここのような大図書館は疎か、本すらあるか分からないよな領地ですぞ!? 」

ニートルンは本の大精霊であり、いつも本と共にある。
そんなニートルンが本も無いような荒地に、あの無能のレンが居るという理由だけで向かうとは……。

「やっぱり」

「考え直してくれたか!? 」

期待に満ちた目で立ち上がり、ニートルンを見やる。

「やっぱりあなたはレンの事を何も分かってない。もう話すことも無いし。ばいばい」

「お、お世話になりました!! それでは失礼します!! 」

「ま、待ってくれ……」

国王の伸ばした手は届かず、パタンと閉まるドアを呆然と見つめるだけだった。

「な、何故だ? あの無能の何をわかってないと言うのだ? あれに着いていく? 図書館の大精霊が、世界最高級の図書館を捨ててまで、あの無能が居るという理由だけで、ヘレクス領に移るだと? 」

分からない、何もかも分からない。そもそも後釜をどうすればいいのだ。そこらのメイドが管理できるような場所じゃあない。

「あぁ! 何故私がここまで悩まなければ行けないのだ!! 」

ガシガシと頭を掻きむしっていると、一人の男が入ってきた。

入ってきたその男を見て、国王は閃く。

「おお! リク! ちょうど良いところに来てくれた! 実はリクに図書館の管理を任せたいのだ」

「え? なんでまた図書館を? あそこは大精霊が管理をしていたはずだろ? まさか愛想尽かされて逃げられたとかないよね? 」

「そ、そのまさかだ」

「はぁぁぁ!? 冗談のつもりで言ったんだけど!? 」

「なんでもレンに着いていくとか言いおって」

「ますますなんで!? 無能に着いていく大精霊なんて聞いたことないよ……あぁもうわかった! めんどくさいけど管理するよ! 」

「本当か! 助かるよ」


「これでなんとか大精霊の抜け穴は塞がったな。全くとんだ手間がかかったわ。今日はもう疲れた」

中々に仕事が手付かずになった国王は、いつもより早めに仕事を切り上げ横になった。

「リクのお陰でなんとかなりそうだし、明日は今日みたいな事にはならずに済みそうだ……」

これから王国の重要人物達が次々とレンの後を追って、王国を後にすることを国王はまだ知らないーーー。
ヘレクス領の領主に就任して数日。
少しづつ領主の仕事にも慣れてきたし、領民とも良い関係を築き始めれている。

凄く順調だ。これは早くもぐーたら生活を実現出来るかもしれない!

「今日の仕事は何があるかね……と」

錬金術で作った座り心地の良い椅子に座って、いざ仕事モード。ここに座ると、何がなんでも仕事をする。そんな悪魔みたいな椅子になってしまった。俺はただだらけて過ごしたいだけなのに。

リーナとトメリルが作った領主のスケジュール表に目を通す。

今日の予定は領地の見回りです

「え、今日もそれだけ? 」

そうなのだ。ここに来てから数日間はたったが、これまでしてしたことと言えば、Cランクの魔物の討伐くらいだけである。後の仕事は見回りだけ。

そして左に目線をずらす。
まぁ、こいつに目を通すって仕事もあるんだが、これに関しては二人がまとめあげた書類の最終確認をするだけ。

実質ぐーたらしているようなものである。

だらけたい俺に取って好都合な話だが、流石に不安が残ってしまう。けど二人になんか仕事は無いかと聞いても、無いって帰ってくるからなー。

なんか問題でも飛び込んでこないかね。
あ、あまり労力使うのはナシで。

そんなことを考えてながら、窓から領地をのぞく。
何やら入口の方が騒がしい。

「あれ? なんかデジャブ」

まーいいや、行ってみよっと。

そしてその場に着くなり俺は驚愕した。

だって領民たちに囲まれていた二人の少女は俺がよく知っていた人物だったから。

「トルン!! それにトゥーンちゃんも!?ど、どうしてここに 」

「レンがここにいるから? 」

「私はついてきただけですけど……私もあんな場所にいるよりレン様と同じ場所に居たいです」

「俺がここにいるからって……」

わ、わからん……。目の前にいるこのちっこいロリ少女は本の大精霊だ。そんな大精霊が、世界中を見ても最大級の図書館を捨ててまで、俺のところに来るだなんて。

「ほ、他にも理由あるよね? 」

流石に俺目当てだけでこんなとこまで来るはずない。

「ない。あとあそこの本全部読んだし、いる意味無い。だから来た」

俺目当てだけだった。

どうしたらいいんだこれ……王国攻め込んできたりしないよね……?大精霊を誑かした犯罪者だ!!とか。

あの人たちならやりかねないんですけど……。
っと、そんな事を考えていても仕方がないか。

「私は多分こうなるだろうなーって予想してたので! じゃなければ無理やりにでもトルンさんと合わせてましたよ。国王なんかより、よっぽどレン様に助けられてきましたので。それに私言ったはずですよ? すぐに会いに行きますって! 」

「確かに言ってたな」

こんな直ぐに会うことになるとは思ってもなかったが。
あんな今生の別れみたいなシーンだったのに、数日ぽっちで再会を果たしてしまうとは。

「ここ、本なんて数える程しかないけど、本の大精霊として大丈夫なのか? 」

「うん」

二つ返事で即返された。本人が良いって言ってるならいいか。本の大精霊とは?って感じだが。

「じゃあとりあえずは俺の屋敷に住んでもらうことになるがそれでいいか? 」

「とりあえずじゃなくてずっとそれでいい」

「同感です」

即答する二人。
まぁ他に住める家は現状ないし仕方ないか。

「じゃあ屋敷の案内するよ」

俺はそう言うとこの場は解散となり、領民たちは仕事なり世間話なりへと戻って行った。




「ーーーとまぁ、それなりに部屋はあるから好きなとこ使ってくれ」

ひとしきり二人に部屋の案内を終えた。
ぶっちゃけ案内する部屋が少なすぎるが。まだ最低限の部屋当てしかしてないからな。

「あれ、お客さんですか? 」

トメリルが声をかけてきた。

「うーん、お客……というよりはそれ以上の位の人間? 」

「それ以上の位の人間……て、どゆことです? 」

首を傾げてきょとんとした様子のトメリル。

トルンに言っていいか?との意味を込めて目配せをする。
こくりと頷いたので、説明することにする。

「実はこの子大精霊……なんだぜ? 」

「大精霊ですか……ダイセイレイ……ダイセイレー!?!? この子……いやこの方が!? 」

あー…そりゃそうか。普通この反応になるか。傍から見たらただの銀髪ロリっ子。よくよくみたら尋常じゃ無いほど綺麗で透き通った銀髪だから怪しさはプンプンだけど。

「ん、図書館の大精霊」

「ここ図書館はおろかまとまった本すらまともに無いですよ!? 」

「大丈夫」

「それって図書館の精霊としてセーフなんですか!?!? 」

「セーフ」

「というかどうしてこんな領地に? レン様といい図書の大精霊様といい、何故立て続けにこんな場所に……」

「そこに」

「そこに? 」

「そこにレンガいるから」

「ははぁーー……大精霊様はレン様を追ってこんな場所までやってきたんですか。レン様ほんと慕われてたんですね」

「そういうのはあっち(王国)から何人も来てからいえやい! 」

普通にトルンとトゥーンちゃんが俺を追ってきたのは予想外だったが、流石にもうこれ以上は誰も来ないだろう。

うん、だって俺人望ねーし。

慕われてたなんて言ってくれるのは嬉しいけど、これっぽっちも慕われてなかったと思う。

「またまたそんなこと言ってー! あんなにレン様のことを想っているリーナさんに加えて、大精霊様とそのお付きまで貴方を追ってやってきたんですよ? これはもう王国の色ーんな方が来そうですよ!! みんなに伝えておかなくっちゃ! お先に失礼しまーす! 」

「あ、おい、ちょっとー!? そんなこと絶対ありえないからねーーー!? 」

俺の絶叫がこだました。

こうして就任数日にして、領民が二人も増えたのだった。
「あー暇ぁぁ……ふわぁぁ」

「大きな欠伸をしないでください。仕事中ですよ」

「そんな怒らんといて……」

「では仕事に集中してください」

「いや仕事って……」

机の上には大量の紙……なんてものは無く、俺がさっきまで寝てた証拠となるヨダレが垂れていた。

きったね。

「あの……なんか仕事ないんですか」

「今は特に何も起きてないので、ぐーたら過ごしていいですよ! 領民からも領主が直々に出るような案件はなさそうなので」

うーん、かといってまた寝ようとしたらリーナに怒られるだろうし。

「では領地の外を見て回るのはどうでしょう!? 」

「俺はいいぞ」

「レン様? ただサボりたいだけでは……」

「これはサボりでもなんでもないぞ! 外を視察して危険がないかチェックする。れっきとした仕事だ! 」

「まぁいいですけど、では支度をしてまいります。せっかくのお誘いですしね」

「やったー! 皆さんでピクニックです! るんるんです! 」

そう言ってリーナとトメリルは領主室から退出した。

俺=領主の仕事。二人=ピクニック。
つまりちゃんと仕事してる俺えらい!

そうだ、せっかくだしトルンとトゥーンも誘ってみよう。

部屋を移動し、トルンの部屋(仮)に行ってドアをノックする。

「おーい俺だけどー」

直ぐにドアが開き、トルンとトゥーンが顔をのぞかせる。

二人とも一緒に居たのか、トゥーンを呼ぶ手間が省けてよかった。

「レン、何か用?」

「ちょっと出かけるんだが、お前らもくるか? トメリルが言うにはピクニックみたいだぞ? 俺は領主の仕事として赴く訳だが」

「いく。待ってて、五分で支度する」

「あはは、ピクニックですか! いいですね!!私も行きたいです! ご迷惑でなければですけど」

「ピクニックに迷惑なんてないぞ。気にせずトルンと支度をしておいてくれ。終わったら玄関に集合してくれな」

「あ、いやピクニックはそうなんですが、あまり大勢で行くと領主としてのお仕事を邪魔しちゃわないかなって……」

そんな真っ直ぐとした気持ちに、後ろめたくなる。
自分は仕事として、を強調し過ぎてしまった。
ほんとは俺もピクニック気分なんだけどな、わはは。

「仕事がピクニックだ。気にせずに準備をしてくれ」

「へ? 」

「ま、まぁそういう事だから。じゃ」

「ははーそういう事ですか! 私ニブチンでしたね! いつもだらけてるようでだらけてないレン様ですけど、リーナ様の目がある手前、あくまでも俺は仕事として行くアピールってことでしたか!! 」

「バカ!!声がでけぇよ!! 」

「あっ、すいません! 私ったらつい……」

慌てて口をつむったトゥーンちゃん。

まったく……もしリーナがこれ聞いてたらどうすんだよ。ゲンコツ食らうぞ。

「! わ、わたしはぁ……これで一先ず失礼します……ね? ほ、ほらピクニックですし? おめかししなくっちゃ。トルン様のお手伝いもしますので……すいませんっ!! 後で謝りますからー!! 」

俺の後ろ? を見て焦ったような顔をしているトゥーンちゃんは、早口でそう言うと、物凄いスピードでドアを閉めた。

はて、どうしたんだろうか、と首をかしげた瞬間、足元近くに足元があった?

幽霊、なのかな?

逆に幽霊であってほしい。いや、幽霊に決まってる。
俺はフラグなんて立ててやいない。

「そうですよ? 幽霊です。ですからこちらを向いてください」

なんてこった、背中の幽霊は俺のメイドさんの声とそっくりだ。

怖くて後ろなんて向けたもんじゃない。後ろ向かなくても背中開眼したら見れるんだけどね。見るの怖いからね。

テ、テレポート。

俺は頭の中でスキルを発動させた。
無事トルンの部屋の前の廊下から、俺の部屋にテレポートできた。

さっきのは幽霊、さっきのは幽霊……。

少し身支度を整えてから、待ち合わせ場所である玄関に向かった。まだ誰も来ておらず、玄関近くの階段に腰掛けて皆が来るのを待っていると、トメリルがやってきた。

「あっレン様! はやいですね」

「んにゃ、はやいっつーても、そろそろ時間だぞ」

トルン達はともかく、リーナが約束の時間ギリギリになるまでやってこないなんて今までただの一度もなかった。

「おめかししてるんですよ! おめかし」

「トゥーンちゃんも言ってたけど、ピクニックくらいでおめかしするもんなのか? しかも本格的なピクニックでもないただの外回りだぞ? 」

「バカですねぇ〜。リーナ様の今までの苦労が目に見えて分かります。レン様はこの方面にはからっきしですね」

「何を証拠にドンドコドーン!? 」

「いいですか? 好きな相手とお出かけする時は女の子はおめかしをするんです」

「え、じゃあトメリルも俺の事好きってこと? 」

「ひゃえぇっ!? わ、わわわわわたしはおめかししたい気分だったからしただけです!!! 急にとんでもないこと言わないでください!!!! 」

みるみる顔を赤く染まらせ、ぽかすか叩いてくる。

「ん、おまたせ」

「遅くなってごめんなさい〜! 」

なるほど、観察してみると確かに普段とはちょっと違うな。花の髪飾りを二人とも付けていて、初めて見る二人の姿に新鮮な気持ちになる。
なんか双子みたい?

「お待たせしました。って私がビリですか」

「ああ! ぶっちぎりのビリ! 」

言った瞬間、無言でひっぱ叩かれた。
俺ですら捉えられない速度での高速ビンタ。神でも見逃しちゃうね。

「「「「デリカシーがない」」」」

こうしてピクニック……いや、領主としての仕事である外回りが始まったのだった! 俺、不憫!!