さて、一つずつ状況を整理していこう。
この目の前に広がる景色についてだ。

とてもじゃないがお世辞にも領地とはいえない光景が広がっている。

「なぁにこれ」

見渡す限り、全て酷い。 ほんとに酷いの一言に尽きる。

草地はぼうぼう、ここから見える民家と思われる建物はボロボロ。

本当に人が住んでいるのか? と不安になるほどに。

「すいませーん、誰か居ませんかー? 」

リーナが声を上げる。しかし返事はない。

しゃーねー、もっと奥側に行って人が居ないか確認してみよう。

しばらく歩いているとやっと領民とおもわしき人を発見した。

「あら、旅人の方かしら? こんな場所に来るなんて不幸なもんね 」

「ええとあんたは? 俺はレンだ。レン・レジ……あーいや、レン・ヘレクスになんのか。まぁ、こんなナリだが元第五王子で、この領地に左遷……もとい追放されて領主を任されることになった。んで、こっちは」

紹介しようとしたがすっと一歩前出て遮られたので口をつむる。リーナが一歩手前に出る時は基本自分で言います、的な合図。

「私はリーナです。こちら天才錬金術師のレン様の専属メイドをやらせていただいております。以後お見知り置きを」


「まさか領主様になられるお方だったなんて……丁寧に紹介ありがとうございます。あたしはトメリルです。ここのまとめ役みたいなのをやってます。正直あたし一人では限界を感じてきてたので、領主様が来てくださって心強いです。それに錬金術師とは……! 」

トメリルと名乗った女性は俺らより背丈は少し小さい程度。頬は黒ずみ、少し痩せこけている。で、薄茶色の髪に目。長さは背中まである。服はボロボロで所々破れている箇所まである始末。

「あー、いや、目輝かせてるとこ悪いんだが、国王に無能だと追放されたようなナリだから、そんなに期待されても反動でガッカリするだけだと思うぞ。任されたからには全力でやるけど……」

ぶっちゃけ、さっきここ見た時にはバックれることも考えたが領民が居て、しかも領主が居なくて凄く苦労している。
それにこんな年半ばの女性が領民をまとめている、なんて聞いてしまったら逃げるに逃げれなくなってしまった。

ここに流されたのもなにかの運命だと思って、いっちょ領主やってみますか。

「それでも領主様が来ていただけるだけでもありがたいんです……本当にありがとうございます! そうだ、皆を紹介したいですし、着いてきてください! 」

手を引っ張られ、かなり広めの家に案内される。
中には領民が数人いた。

「ここが集会所です! 何かあった時や会議を開く時とかにここに集まってます。今来れる人を呼んでくるのでレン様とリーナ様は椅子に腰掛けて待っててください! すぐに集めてまいりますので」

そう言い残すと、猛スピードで走っていった。
ぽつんと取り残された俺たち。

当然中にいた領民たちは不思議そうにしてる。
俺らを目にした領民がなにやらこそこそ話し合っている様子も見受けられる。

やがて話し終わったのか静寂が訪れる。
当然だがここに住んでいる人だらけな訳だ。その中によそ者が紛れ込んでる構図。
そりゃシーンってなるわな。

この空気、耐えられねぇ!
ちょっと話しかけみるかね。とりあえず1番近くにいるこの人にーーー

「レン様、リーナ様! お待たせしました! 今来れる者を集めてまいりました。外に狩りに出てる者などにはまた個別で挨拶に向かわせますので何卒」

別に後から挨拶になんて面倒なことしなくてもいいのに。

トメリルの後からぞろぞろと領主が入ってきては、俺をみて変な顔をしてる。中には俺とトメリルの顔を交互に見て首を傾げるものまで。

「レン様、そちらの椅子にお座りください」

段差の上にある椅子を指さし、言う。

なんともボロい椅子だけど、他の椅子よりは一回り大きい。多分偉い人用だろう。これまではトメリルが座ってたのだろうか。

とりあえず座ってみた。
座り心地は普通。長時間座ってると背中が痛くなるかも?程度。

相変わらずザワザワが止まらない。
俺が椅子に座ったタイミングでトメリルが隣にやってきた。

右がリーナ、左がトメリル。

「えぇと、どうすりゃいいの? 」

こんな経験ないから、これから何をするのかすら全くわからん。こういうのはリーナも詳しそうだけど、トメリルは領主なわけだし、トメリルに聞くのが1番だろう。

「んん、皆、この人誰? って思ってるでしょ? 」

トメリルの問に一斉に頷き出す領民。

「じゃあー問題! この人は誰でしょー! 」

あれ? なんかキャラ変わってね? さっきとは打って変わって声も弾んですげぇ元気なんだが。

「はーい!! 」

列の先頭の方で元気に手を挙げてる女の子。

「じゃあ、ナナンちゃん! 」

へぇ、この子はナナンって言うんだ、覚えとこ。
ゆくゆくは全員の名前覚えなきゃだしな。こうやって少しづつでも覚えてかないと。

「トメリルお姉ちゃんが拉致って来た冒険者さん! 」

「違うよ〜!? お姉ちゃん拉致なんてしてこないよ!? 」

「えーほんとー? 」

「ほんとです! これが終わったらナナンちゃんお話があるからね! 」

「やだー! 帰るーー! 」

なんか和む……。

「他に誰かない〜? 」

また一人手を挙げた。次の人は目元まで黒髪で覆われていて顔がよく分からない。

さっきのナナンちゃんは黄色髪おさげの幼女、って感じで凄く印象に残りやすかったが、全員が全員そうじゃないからな。

「トメリルの……彼氏……でへへ、大正解」

「それだ! 絶対そうだよ!! 」

「メナウさん天才だ! それ以外考えらんねぇよ!! あんな頬を赤く染めてるトメリルさんなんて俺、みたことないよ。……あれ? 真っ赤になってる」

へぇーあの子はメナウって言うんだ、覚えとこ。
ビンゴビンゴと騒ぎだした男が指さした先にはトメリルさんが居る。そう、顔がリンゴよりも赤くなったトメリルさんが。

「ち、違うよ〜!? もう皆真面目に答えてくれないから答え言っちゃいます! この方はなんと〜」

「「「なんとー? 」」」

ごくりと唾を飲み込む音が聞こえるほど、一瞬静かになる。
誰もが固唾を飲んで次の言葉を待っている。

やがて小さい口が開かれる。

「なんと! 領主様であらせられます! レジエント王国からこられた元第五王子で錬金術師のレン様と、その専属メイドであるリーナ様です! 皆、拍手〜! 」

ぱちぱちぱち!!
溢れんばかりの拍手が巻き起こり、皆一様に驚きを顕(あらわ)にしている。

「領主様!? 」

「この見捨てられた領地にまさか領主様が来て下さるとは……」

「夢じゃないのよね? 」

中には疑い、泣き出すものまで現れて、てんやわんやした状態となり、収集がつくようになるまで少し時間がかかったのであった。

気持ちは凄くわかる。だって今まで領主が就任しても直ぐに逃げ出してまともな政策はされてこなかったし、他の領地や国も近づかず、関わろうともせずに放置状態。
本来レジエントは金銭的な援助等をしなければならないのに無視。

挙句にはどこからも事情最悪のスラム領地だなんて言われる始末。

領民たちは見捨てられたのと同じ。
それでも諦めまいと全員で努力をして今日まで生きてきているのだ。