「しっかし、領民たちは俺を信用しすぎじゃね? 外に出るのはあんだけ危ないって言ってるくせに、俺が連れていくとなった瞬間即座に了承してきたし」

「それだけ認められてきてるってことじゃないですか」

「それはそうだけどさー」

「何か問題でもあるんですか? 私はいい事だと思いますが」

「あまり期待されすぎると、目を気にしちゃってのびのびとサボれない」

「アホですか。今日はナナンちゃんも居るということを忘れないでくださいよ。模範となるような行動をしてください! 」

「えー、ナナンちゃんも勉強なんてせずに遊びたいだろ? 」

「それだとめいどさんとの約束守れないからだめ」

とても幼女とは思えないほど立派な発言に俺はガックシ。

だらけ仲間が欲しいよー。一緒に仕事中に抜け出してサボれるような仲間が欲しい!

「子供の純粋な発言を聞いても尚、よこしまな考えしてるなんて……レン様はどうしてそこまでサボることしか頭にないのでしょうか」

「うるせーやい。てか心の声読むなし」

「そんなレン様みたいな芸当出来ませんよ。顔に出てただけです。顔に」

「え、俺そんな分かりやすい顔してる? 」


領地からまぁまぁ歩いた場所まで来た。

歩いていて思ったが道中の道の雰囲気が悪すぎる。
草木が生えきったまま放置されてることや、魔物の死骸や魔石がそのまま地面にあったり、血の跡がついていたりするのが原因だろう。

ナナンちゃんの教育に悪いから、死骸はアイテムボックスに遠隔で入れて置いて、血の跡はこちらも遠隔で【クリーン】を使い綺麗に落としておいた。

そのため、魔石だけが謎に地面にたまに転がっている状態になっており。

「わぁー! 綺麗な石ころがあるー!! 」

子供には少し楽しめたようだ。
あ、もちろん魔石も先回りで綺麗にしている。

かがみこんでキャッキャッしてるナナンちゃんを、見ながらリーナが言う。

「サボりたいと言った矢先にこんな粋なことをできるレン様はやっぱりす……ばらしいです」

「え? なんのこと? 魔石が偶然転がってただけじゃないかな」

「素直に認めてもいいですのに。偶然子供が手に取っても大丈夫なほど綺麗な魔石がこんなところにある訳ないです」

「子供からしたら綺麗な宝石にしか見えんだろうからな。これも思い出になるだろ」

そう話してると、ナナンちゃんがこっちにやってきて、魔石を二つ渡してきた。どちらも銀色だ。これはおそらくシルバーウルフの魔石だろう。

アイテムボックスに回収した覚えもあるし。

「領主さんと、めいどさんにあげる! おふたりのかみのけと同じ色だし、同じように綺麗な色だから! 」

そう言われて、見合わせる俺たち。
髪色偶然同じだったんだよな……そういえば。

ナナンちゃんが言ったように、リーナの髪は艶があって綺麗だ。こう、改めて見ると、凄く美人だなと思う。

「ありがとな! 大事にするよ」

「……」

「リーナどうかしたのか? 俺の顔見つめてボーとしてるけど。もしかしてなんかついてた? 」

「っっ……!? いや、その改めてレン様のお顔を見て、カッコイイなと思いまして」

「ははっ」

「え、なんで笑うんですか!! 」

「わりぃ、わりぃ。いや、同じだなって思ってな。俺も同じこと考えてたんだよ」

「そ、そうですか。同じですか」

「うん、お似合い! なんでめいどさんそんなに顔赤いの? 熱でもあるの」

「いえ熱はないので心配しないでください。……ナナンちゃん、ありがとうございます。大切にします」

「うん! お母さんにもあーげよっと」

ナナンちゃんはまた先の方へ走っていく。

「あんま離れすぎると迷子になるぞ。ほら、リーナ追っかけるぞ……リーナ? まじで顔赤いけど大丈夫か。 体調悪いならここらで一旦帰るか? 帰ろうと思えば一瞬だし」

「いえ、顔が赤いのはそういうことではないので大丈夫です。もう大丈夫なので行きましょうか! 早くしないと遠くに行ってしまいます」

本人がそう言うなら大丈夫か。

外を散歩しながら、個人的に気になるところとかを治しながら行った結果、ヘレクス領までの道の雰囲気が少し良くなった。

「つかれたー! 」

たっぷりと魔石の入った籠を両手に持ったナナンちゃんが言う。

アイテムボックスに入れて置いて、後から出してあげるとは伝えてみたのだが、どうしても自分で持って歩きたいとの要望によりカゴを作った。

どれだけ集まったかが一目で分かるのもあって、子供としてはこちらの方がいいのかもしれない。

「じゃあーそろそろ帰るか。満足した? どうだった? 外の世界は」

「大人が言ってたことと全然違うー! 怖い魔物なんていなかった! たのしかった! きょうはありがと、領主さん、めいどさん! 」

屈託のない笑顔で感謝の言葉を口にしてくれた。
その怖い魔物は実際すぐ側にいたし、君の集めた魔石は魔物の体内にあるやつだよ、なんて真実は閉まっておく。

子供のうちは世界の闇の部分なんて知らなくていいんだ。


ガァァァァッッッ


今なにかかすかに音が聞こえた気がする。

音の聞こえた方向はーーーここから少し離れた箇所。

「リーナ! ナナンちゃんを連れて領地に早く戻ってくれ! 俺はちょっと向こう行ってくる! 」

「え? あ、はい。分かりました」


あの鳴き声、この肌がピリつく感覚。
俺は愛犬の一つである羅刹(らせつ)を取り出して、その方向に向かう。

【神速】とかを使って、数十分はかかる距離を数十秒でたどり着く。

嫌な予感は的中していた。
それどころかーーー

デスベアーの振り上げた爪が、今にも少女の身体を切り裂こうとしていた。

俺は一瞬でデスベアーの背後に接近する。

そこで少女が驚きの発言をした。

「レン君とご飯、食べたかったなぁ……」

「えっ? 」

少女の予想外の発言に驚いて、変な声を出しながらも頭をストン。

ボトッと音をたてながら、地面に頭が落下し、首から血が吹き出……ない。

「フリーズからのアイテムボックス」

身体を丸ごと固めて、アイテムボックスに保管した。

殺されかけた少女に更なるトラウマを植え付けてしまうのはさけたいからな。

未だに目を瞑って泣いている少女のそばに行き、隣に座る。

まいったな。俺はこういう時にどうしたらいいのかなんて持ち合わせてはいない。

なんでこんな場所にいるのか、一人でここまでやってきたのか、色々聞きたいことはあるが、なにより先程の発言が気になる。

俺の聞き間違いでなければこの少女はこう言ったはずだ。
レン君とご飯を食べたかった、と。

まさか俺の名前が出てくるとは思わなかったから、素っ頓狂な声が出ちゃったよ。

かっこよく決めたかったのに!
少女はこっちを見てなかったから、まじでただ素っ頓狂な声を上げただけの男になっているだろう。

怖かっただろうし、どう声をかけたものか。
こんな状況で質問攻めしても、答えてくれるか分からないしこれだけ聞くとしよう。まぁ、その前に。

「ねぇ、君? ずっと下を向いて目を瞑ってるけど、もうクマちゃんは居ないよ? 」

「へ……? 」

お、やっと顔を上げてくれた。
ふわりと髪がまい、顔が見える。

その顔に俺は見覚えがあった。

「俺と飯食べたいの? ……って、あんときの聖女ちゃん!?なんでこんな所に!? 」

そう、聖女ちゃんだった。

「えっ……? レン……君? 」