王城を出る前にやり残したことがあったと思い出し、その用事を済ますべくとある場所に来た。
しかし、門番に止められていた。

「さて、俺としては世話になった連中に挨拶をしたいわけだが? この図書館の司書であるニートルンにあわせてくれないのか?」

「も、ももも申し訳ございませんっっ!! レン様のお考えは立派ですし素晴らしいことです。それにトルンさんもレン様に会いたいと思っているはずです。ですが、先程国王様の使いから伝令があってお通し出来ないんです……本当に申し訳ございません」

ぺこぺこと頭を何度も下げながら何があったのかを説明してくれた。

要約すると、人に挨拶してる暇があるならとっとと出ていけ。そういうことだろう。

俺としては世話になった人らには一人一人今までの礼を伝えて、新天地でも頑張ると言うのが筋だと考えている。しかし、自己的な考えでここに仕えている色んな人達を困らせるのは違うだろう。

親父と兄たち以外は皆、とても良い奴らばかりだからな。

「まいったな……その伝令とやらはもう全てに行き渡ってるのか? 」

「そうですね……端から端まで行き渡ってるかと」

まだ行き渡っていない場所にいる奴には挨拶しようとしたのだが無理そうだ。
あんのクソ親父め……最後の挨拶くらいさせてくれてもいいだろうがよ。

「ああもう、しゃあねぇ! トゥーンちゃん、一つ俺からの最後の伝令を頼まれてくれないか? 」

「は、はい! なんでしょうか」

「トルンを初めとした俺が仲良くしていたやつ全員……いや、全員は大変だろうから主要人物だけでいい。今まで世話んなった、ありがとう。俺も頑張るからお前らも頑張ってくれって伝えてくれないか? もしあの親父になんか言われたりしたら素直に辞めていい、なんならここで断ってしまっても大丈夫だ」

もし見つかれば何か言われてもおかしくない。

「わ、分かりました!! ま、任せてくださいレン様!! 」

「俺が言うのもなんだが、もし親父に見つかれば嫌がらせを受けてしまうかもしれないんだぞ? 本当にいいのか……? 」

親父だけじゃない、兄たちもだ。
あいつらの俺を嫌ってる率は尋常じゃない。味方をするだけで何かしてきてもおかしくないくらいに。

それでもトゥーンちゃんはやると行ってくれている。
俺に義理とかは無いはずだ。

「なーに言ってるんですか。国王様やレン様の兄弟は事ある毎にレン様を【無能】だなんだと仰られてましたけど、それ以外の人達……ここで生活してる皆さん全員、レン様は無能なんかじゃない、天才レン金術師だって知ってるんですから! 」

「いやー天才は言い過ぎだよ。けど嬉しいぜ! ありがとな」

「命に変えても絶対に皆さんにお伝えします! あちらでも、体調にはお気をつけて! トルン様と一緒に、また絶対にお会いしましょうね! 約束ですよ! 」

「いや命の方を最優先にしろよ!? トゥーンも元気でなー! 」

「はーい! すぐに会いに行きますからねー! それまでの間、リーナさん! レン様をよろしくです! 」

「おまかせを」

ん……? すぐに会いに行くとはどういうことだろう? 言葉の真意を聞こうとしたが、ドサドサと足音を立てながら誰かが歩いてくる。

この偉そうな歩き方をしないと出ないような音を響かせる奴は兄貴達のうちの誰か、もしくは親父だけだ。

トゥーンちゃんと談笑していた事がバレるとトゥーンちゃんが怒られかねない。早くこの場から離れなければ。

「じゃあ俺たちはこれで! 」

「それではまた」

「はい! またねです! 」

ポケットから緊急用にいつも常備している【転移石】を取り出して、王城の外に、と念じる。

その直後には俺たち二人の身体は、王城の廊下から、王城の外の街中の噴水近くに転移していた。

「焦って使ったから詳しい場所は指定出来ずにここに転移しちまったわけだが、どうせだしなんか買ってくか? 」

「いえ、やめておきましょう」

「え、どうして」

どうしてだ、と聞き返そうとして、リーナが断った理由が分かった。

王城の上階の窓から一人の人物ーーありゃ第三王子のトンダーガだな。トンダーガがこちらを見ていることに気づいた。

えーと、《遠見》っと。
このスキルは遠くを見るのに特化したスキルだ。

遠くの物や人がくっきり見える便利なスキル。似たようなスキルに《レーダー》もあるが、ただ遠くを見るためだけならこっちで十分。

あ、因みにどっちも俺の自作スキルだ。

作れた際には親父や兄に嬉々として伝えたものだが、返答はどれも同じものだった。

「遠くをみれるだけなんてゴミスキルじゃないか! 役にも屁にも立たん! 」と笑われた。

知り合いの王国魔術師の一人にこのスキルを伝えたら、えらいビックリしながらも、「是非あたしに教えてくれないか!? 」と両手を握られ懇願されたものだ。

ああ……あいつにも一言お礼を言いたかったな。
彼女との昔の思い出に浸っていると、トンダーガと目が合った。

先程までこちらをニヤニヤと笑いながら観察していたというのに、目が会った瞬間何故か慌てふためいている。

なにか王城であったのだろうか? かと思えばまたこちらに目線を向ける。ベーと舌を突き出し、人差し指でこちらを指さし、ひとしきり笑う仕草をするとカーテンを閉めてしまった。

「な、なんだったんだ。あいつは何をしてるんだ」

「気にする必要はないかと。しかし、もしかしたらまだ私達がここに留まっていると国王様……いえクソ国王にチクるかもしれません。早急にここを離れましょう」

クソ国王って……。いや俺もクソ親父って呼んでるからお互い様か。

「あれ? そういえば辞表とかってどうしたんだ? 」

「いつでもレン様と駆け落ち出来るようにと、いつも胸ポケットに忍ばせていました。机の見える位置に置いてきたので心配ご無用です」

「ま、まじで? 」

え? 準備してたの? 俺の専属メイド用意周到過ぎないか……? 今回のもそうだが、さっきの荷物の用意だって一瞬だったし。

王城仕えのメイドの更に上、王子の専属メイドとなるとそうなのだろうか。ほんとに無能な俺には勿体ないメイドである。だがそれを口に出すとまた怒られるので口は紡いでおく。

「んじゃ、馬車に乗ってヘレクス領に向かいますか」

乗り場へと向かって歩いていった。