「マーリンが転移魔法使えるんなら、もしかして馬車で向かわなくていいってこと? 」

「任せて……って言いたいところだけど、ヘレクス領なんて行ったことないのよね」

「普通近寄ることないもんね。じゃあやっぱ馬車で向かうしかないの? 」

「それには及ばないわ。マーリンの知り合いのところに行きましょう」

「知り合い? ここの近くにいるの? 」

「そうそう。すぐ近くだから着いてきて〜」

マーリンに案内されながら、その知り合いが居るという場所まで来た。

「え、ほんとにこんなとこにいんの? 」

ここ路地裏なんだけど。しかもゴミとか散らかってるだけで、他なんもないし。

「ここであってるわよ〜」

「なんもないよ? ここ……って、え? 」

マーリンが壁に手を向けると、光とともにトビラが現れた。

「認められた魔力を流さないと、現れることの無いトビラみたいなものよ」

「そんなことできるんだ、マーリンの知り合いってすごいね」

そう言いながら、トビラの中へと入っていぬ。

「えっ」

入った瞬間に声が出た。
廊下にはモノが散乱しており、踏み場すらない。
現に玄関から溢れたモノが何個か路地裏に落ちた。

なんでこんな汚い路地裏に……と思ってたけどまさか汚い原因がこれだとは。

なんか見た感じ研究器具? 実験容器? みたいなのが目立つけど、これ踏んでいいのかな。

人様のものだし扱いに困る。かといって全て踏まずに行くのは至難の業だ。床の底が見えている箇所がどこにも無い。

そんなあたしの心配を他所に、マーリンはヅカヅカ歩いていく。

「ねぇ、これ踏んでいいの? 」

「全部ゴミだからいいわよ。大事なモノとかは研究室にあるだろうし。これらは捨てに行くのがめんどくさいから部屋から外にポンポン投げていたらこうなったものよ」

それならいいか。
てか捨てに行くのすらめんどくさいってどれだけナマケモノなのよ、これから会う人。

「ルミナ〜来たわよ〜」

マーリンはそう言うと、ドアを開く。

あれ? 部屋の中は綺麗。廊下とは大違いだ。

そのルミナと呼ばれた人物は机に突っ伏していた。

「大丈夫なの? あの人。倒れてるけど」

「だらけてるだけよ。ほら、ルミナ、起きてくださいな」

「んん……? あぁマーリンか。お前がここに来るなんて珍しいな……」

「お疲れのところ悪いけど、ちょっと実験に付き合ってくれないかしら? 」

「……眠いからやだ。今度にしてくれ。徹夜でモノ作ってたから眠いんだ……」

「ちなみに何を作ってたんですか〜? 」

「パンツ」

「……」

「え? 」

「うわっ、びっくりした。誰だよこいつ!? 」

やっと身体を起こしたこと思うと、あたしを指さして驚いている。

「ここの元聖女クレニよ。よろしくね」

「聖女クレニかー。知ってるけど寝起きすぎて分からなかったわ。……ん? 元? 」

「そう、元よ」

「クビにでもなったのか? 」

「自分から辞めたわよ。国王と喧嘩してそれで? みたいな」

「国王と喧嘩って……おま、マーリン、てめとんでもない奴連れてきやがったな!? どうせあれだろ! こいつを匿ってやれとかそんな頼みだろ!! というか城住みのお前がこいつと行動してて大丈夫なのかよ」

「マーリンも辞めたわよ? 国つきの賢者は」

「お前もやめたァ!? な、何がどうなってやがるんだ。国王に喧嘩売った人物が二人も俺様の目の前にいるなんて……厄介事は勘弁だぁ〜。はっ、疲労が溜まって夢を見てるんだ、これは悪い夢だ……寝よう」

「夢じゃありませんよ〜」

「夢じゃないと困るんだよ〜!! あー眠気が〜」

「そんなに眠たいのであれば、眠気が吹き飛ぶ事言ってあげようかしら? 」

「言って見やがれ」

「あなたの大好きなレンちゃん、もうこの嘔吐には居ないわよ? 」

「旅行にでも行ったのか? 何日かしたら戻ってくるだろ」

「そうじゃないのよ」

「じゃあなんだっていうんだよ」

「左遷されたのよ、辺境に」

「……マジで言ってんのか? 」

「大マジですよ」

「あ、あれだろ? 左遷って言っちゃ聞こえが悪いが、あいつの事だし、どこかの領地任されただけだろ? お前が過保護すぎて左遷って思い込んでいるだけで。どこなんだ? パルン領とかそこらじゃねーのか? それなら立派な仕事任されたようなもんじゃねーか」

「ヘレクス領ですよ? 」

「わりぃ、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

「ヘレクス領」

「ヘレクス領がどうしたんだ」

「ですからヘレクス領に左遷されたのですよ、レンちゃんが」

「……は」

ルミナはその言葉がまだ理解出来ていないのか、【?】となっている。少しずつ状況を理解していく。

「まさかあのバカがついにやったのか? 」

「そうですよ〜ついにやってしまったんです。超えては行けない一線を超えてしまったのです。あのバカが」

「ねぇ、バカってあいつ? 」

「えぇ、あいつです」

「あーーだからお前ら辞めてきたのか。ようやく理解できたよ。そりゃ愛想尽きるわな」

「えーとレミナ? レミナもレン君の事を知ってるの? 」

「そうだぞー。話せば長くなるから割愛するが、レンのおかげで俺様は今も生きれてるんだ」

「命の恩人とかそのスケールなの!? 」

レン君凄すぎない?
けど、ひとつ思ったことがある。

「レン君の周りって女しか居ないの? 」

そう、レミナも口調や一人称こそ男そのものだが、性別は女だ。ボサボサで所々跳ねた髪、汚れの着いた服、と服装はあまり綺麗とは言い難いが、顔は、ヨダレの跡とか、クマとか目ヤニとかを除けばおそらく美少女な顔つき。

で、マーリンでしょ。
現時点で二人も女が居る。

「なんだぁー? こいつ新参なのか? 」

「こないだ初めてレンちゃんと会って、仲良くなったそうですよ〜」

「じゃ、知らないのも当然か。せっかくだから教えてやるけど、あいつの周り、大抵女だぞ」


「 」

言葉が出なかった。【空白】? 言うなら空気? だけ出た。
げっぷじゃないわよ。

息、そうよ、【息】が漏れただけよ。
聖女ちゃんは汚い真似はしません。

「あ? あんまショック受けてねぇな。新参者ってたいてーショック受けたりするもんだが」

「賢者のマーリンだったり、国王との話の中でチラッと出てきたけど、大精霊までもレン君を追って、辺境に向かうくらいだから、それほどレン君が色んな人に愛されてるってのは薄々感じたわよ。それにあたしはレン君と一緒に居たいとは思ってるけど、まだそれ以上の感情はな……ないし? だからショック受ける道理はないし? 」

「ははぁーん。そういうこと、ね。こりゃ見守る価値あんな」

「ということは協力してくれるんですか〜? 」

「何を協力したらいいんだ? 」

「やっと話が進みますね〜。単刀直入に言います。例のブツはもう完成したんですか〜? 」

「おう! 完成してるぜ」

レミナはそう言うと、立ち上がって背伸びをする。そして、ふらつきながら歩いていき、箱の中からあるものを取り出して、あたし達の前に置く。

「これなんなの? 」

よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに説明をし出すレミナ。

めっちゃ長かったから要約するとこんな感じ。

「持ち主の匂いを辿って、現在地を発見する。それをモニターに映し出せる」

うん、ただのストーカーだった。

「だけどよ、こいつがあれば後はマーリンが転移魔法で飛べるんじゃねぇのか? 」

「けど転移魔法、莫大な魔力消費するんでしょ? マーリン倒れない?大丈夫? 」

「そこで取引だ。俺様も連れていってくれるなら【転移石】1個やるぜ? 」

ずこっ。

転移石持ってるのね。
けど1個数百万もするようなモノを、一緒に連れていくって条件だけで、貰えるのは破格かもね。

「この研究室は捨てるんですか〜? それにこんなに大量の荷物持っていけませんよ〜」

「なんのための【移動空間】だと思ってんだよ。お前自分が使える魔法も忘れたのか? 」

「……どうしてもマーリンを過労死させたいようですね〜」

「あ? じゃこいつはやんねーぞ? 」

「もう〜やりますよ〜。じゃあ皆さん外に出ましょう〜」

その移動空間? って魔法を今から使うらしい。
聞いた事のない魔法だから、あたしにはよく分からないが、マーリンがやりたがらないくらいの魔法ってことは、転移魔法の同レベルなのかな。