で、なのよ。ここからが問題。
あたし、さっきとんでもないこと聞いちゃったのよ。

第五王子が辺境に、しかもあの恐ろしい噂しか聞かないヘレクス領に左遷されたって。

へー第五王子が左遷ねー。王位継承権1番下だし、家でだらだらしてるから飛ばされたんかなー。

第五王子……。

えっ、レン君!?!?

その立ち話をしてた二人組に、詳しく話を聞かせてもらおうと詰め寄ったが、あまりにも焦りすぎていたせいか、はたまた人に見せられないような顔にでもなっていたのか分からないが、ビビって逃げられた。

持っていたペンを投げつけ、怒鳴る。
ちきしょーめー!!

ここからのあたしの行動は早かった。

事実確認をするべく、お城に出向いた。
めんどくさいことになりそうだから護衛とかはつけずに。


「せ、聖女様。今日もお綺麗で……この度は以下にして我が城に出向かれたのでしょうか」

「あのね、噂? を聞いたんだけど、その事実確認をしにきたのよ」

「ははぁ? その噂とは」

「あんたレン君左遷したってマジ? 」

流石に無いわよね。あの噂はウソ。そうに決まってるよ。

あたしの質問に国王様は、驚きながらも言葉を返してきた。

「左遷いたしましたが、何かレンが聖女様にご迷惑でもおかけしていたでしょうか」

こいつガチで左遷させてやがった。しかも何とも思ってなさそうな口ぶり。厄介払いができて嬉しいという気持ちがヒシヒシと伝わってきた。

「いや逆よ。このまえ初めて会ったんだけど、うちの聖騎士達が手違いでレン君を襲ってしまったけど、ものの数秒でなぎ倒してたくらいには強かったわよ」

「!? またまたご冗談を。あやつがそんなに強いわけがないでしょう。変な魔法しか使えない、錬金術師のくせしてろくな物も作れない輩ですぞ」

「ベアーちゃんのぬいぐるみ作ってくれたわよ? 」

「ガハハハ!! 」

あたしがそう言うと、下品な笑い声をあげる国王様。

「ですからその程度の人間なのですよあやつは。仮にも王子であろう……いや、 あった 者がぬいぐるみしか作れないなど……ガハハハハハハ!!!! 失礼、笑いすぎてしまったな」

なんなのこいつ。

「要件は済みましたかな? 聖女様。今息子のトンダーガが暇をしているのですが、一緒に食事でもされたらどうですかな」

「誰がするかよ」

「き、聞き間違えですかな」

「あたしはレン君と食事する約束はしてたけど、他のやつとする約束はしてないんだよ」

「左様でしたか。しかしレンはもうおりません故……」

「レン君をどこに左遷したか教えてくれる? 」

「ヘレクス領でございますが」

「百歩譲って左遷するのはいい……いやだめだけど、いいとして、実の息子をあんなとこに左遷するって何考えてんの? あんたそれでも親なの? 」

「この国を治める者として正常な判断をしたまで」

「家族すらも大切なできない人間に、国を治めるなんて出来るわけないでしょ」

「貴様ァ!! いくら聖女だからといって国王様になんだその口はァァァ」

「あんたこそ急に口を開いたかと思えばなによ! 聖女様に向かってその口はなんなのよ!! さっきまであたしのこと下品な目で見つめてたくせに」

やべっ、と目を逸らす兵士。そいつを睨みつける国王とあたし。

やだ、こいつと行動シンクロしたくない。

「傍付きが失礼した」

「あたしも口悪くてごめんなさいね。でもさっきのは本心。悪いけどあんたのようなやつが治める国には居たくないわ。あたしもレン君のとこに行かせてもらうわね」

あたしがそう言った瞬間、国王は飛び跳ねて立ち上がり、大焦り。

「今一度お考え直しを!! やつに向かわせたのはヘレクス領ですぞ。今頃死んでるかもしれませぬなぁ……そんなやつのために聖女様が後を追うなど。それにこの国を出るということは聖女としての肩書きもなくなりますぞ」

「あら? あたし言ったわよ、レン君は強いって。そんなすぐにへこたれるような人間じゃないわよあいつは。それにこの国の聖女としての肩書きが無くなる? 大いに結構よ。やっと開放されるのかとせいぜいするわ」

「ちぃぃぃっ、……ぐぐぐ、こ、後悔しますぞ!! 」

「あら、脅しかしら? 今ここで死んでもらうーーとか言い出さないわよね? 」

黙り込む国王。

流石に応接間が血に染まるのは良くないと判断したのだろうか。

そこでガチャリと応接間のトビラが開き、一人の女性が入ってきた。

つばが広く先の尖った黒と青の帽子を被った黒髪に、凛とした顔、かなり突き出た胸。手には先に魔石がはめ込まれた杖を持っている。

女性であれば誰もがうらやむであろう容姿だ。

その女性が部屋に入ると、兵士は敬礼をした。

「聖女のお嬢ちゃん、さっきの言葉かっこよかったわよ」

「あ、ありがと」

急に褒められて困惑したが、お礼を言う。
そんなあたしに微笑むと、彼女は驚くべき発言をした。

「マーリンもこの国お付の賢者を今日をもってやめさせてもらいます」

なんとこの爆乳女、賢者だった。
なんかちょっと見たことあるような顔だなとは思ってたけど……。

ぶっちゃけあたし他の人間との交流薄いから、王国のお偉いさんがたの顔あんまり知らないのよね。

「図書館の大精霊ニートルン様が急にお辞めになったかと思えば次は聖女様に賢者様も辞めるだと!? 聖女様の理由は分かったが、賢者殿! 賢者殿は何故辞められる!? 」

「あら♡ 大精霊様にも愛想をつかされてしまったのですね」

「大精霊様もそこの聖女様と同じでレンを辞めさせたからとかいう意味不明な理由で出ていかれた!! 」

「あらぁ〜」

えっ、図書館の大精霊が図書館捨てて着いていくって何事?
もしかしてレン君ってあたしが思ってる以上にすごい人だったのかも?

「賢者様は……賢者様は何故ッッッ!? 」

唾を吐き散らかしながら、頼む、予感が外れてくれとでも言わんばかりの顔をしている。

「想像してる通りよ〜レンちゃんの領地に行かせてもらうわよ。今までのレンちゃんの扱いに前々から不快感は持ってたんだけど、他の誰にも相談することなく私情で左遷したとかになるとちょっとね〜愛想もつきちゃうよね」

それに、と加えて

「というかレンちゃんのいない王国に価値なんて見いだせないや♡ 」

「それ! あたしも思う」

「あら、聖女のお嬢ちゃんもレンちゃんと仲良しなの? 」

「仲良し……」

数日前に初めて出会ったあいつ……。
今、賢者から「仲良し」って言葉を言われて、ふと思う。

なんであんなにあいつの事を想ってしまうんだろうって。

普通長く一緒に居たりしたから、着いていくもんだよね。

あの時初めて話したあいつのために、なんであたしはここまで行動してるんだろう。

この国での【聖女】としての肩書きを捨ててまで。

国王にはむかってまで。

なんで……?

考え出したら止まらない。だけど、何故だろう。
不思議と悪い方向には進まない気がする。

それはあたしが聖女を今まで辞めたがってからなのかもしれない。

けどなぜか、なぜかあいつの顔が思い浮かんでくる。

最後にした約束とか、プレゼントをくれた時の意外な顔とか。

そうだ、あの時にも今と似たような感情になった記憶がある。

考えても考えてもこの感情が具現化できない。でかかっているハズなのに、どうしても引き出せない。

「それはこ……こほん、やっぱり本人が自覚するまでは他人が教えるようなマネはしないほうがいいかな〜。まぁ、そういう訳だから、一緒に行こっか。聖女のお嬢ちゃん」

「え、あっ、うん! 」

いいかけていた【こ】、って何? って聞きたかったけど、なにやらあたしが自覚? するまでは教えてくれなさそう。

賢者についていき、隣に行く。
そのまま部屋を出ようとしたのだけれど、賢者が「あっ」と声を上げた。

何か忘れ物でもしたのかな? と思ったら、とんでもない爆弾発言を……

「忠告しておくけど、レンちゃんを信頼してたり、大切に思ってる子、沢山いるからね。レンちゃん第一! なんて子珍しくないわよ。皆知ってることだけどね〜、国王や兄弟さん達はレンちゃんをレンちゃんだからという理由で、今の今まで貶してきてたものね。今言った意味を貴方達は今は理解出来ないとは思うけど、いつか身に染みてわかる日が来ると思うわよ」

では、と。

「今までありがとうございました♡ 」

癪だけど、あたしも一応礼しとくか。癪だけど。

「さんっざんあたしの人生を狂わしてくれてありがとう。あっ、けどレン君と出会わせてくれた事には皮肉でもなんでもなく、本当に感謝しといてあげるわ。抜けの聖女は頑張って探してね。大変だと思うけど」

はぁ、スッキリした。
言いたいことは言えたし、そろそろ行こう。
賢者と揃って部屋を出た。

トビラが閉まる。その数秒後に。

「なぜだぁぁぁぁ!!! なぜあいつが!!!!! なぜあいつが関係するんだ!!!!! あの無能が!!! 出来損ないが!!!! この王国よりもあいつを取るんだ!? 」

ガンッッッ!!!

机を殴り、手当たり次第のモノを床に投げつけているのか、そんな音が続く。

それをトビラの向かいで聞いているあたし達はというと。

目を合わせて、ため息をつくのだった。

「もう救えないくらいのバカだったのね、マーリンたちはあんな国王に数十年も使えてたのね」

「そうだね。しょーじき、あたしドン引きしてる」