「いってー……何も叩くことないだろ……」

「こればっかりは擁護できないですよ! 」

とトメリル。

「あれはレンが馬鹿」

「そうですよ! レン様は錬金術で【女心】みたいなスキルでも作って、それを理解した方がいいんじゃ……」

「どーやってそんなスキル作るんだよ」

「私たちからしたら【アイテムボックス】とか【テレポート】とかの方が、どうやって作るか気になるんですけど!? 」

「そう言われてもなー、作れちゃったんだから仕方ない」

「オバケです! 神様はどうしてこんな完璧超人に【女心】を外してしまったんでしょうか。それさえあればハーレムでしたでしょうに」

「ん、 いまでもハーレム。四人もレンの周りにいる」

「トルン様ハーレムと言うのは、その男性に好意を持った女性が複数人いて、ごにょごにょ……」

「しってる、だからハーレム」

「いや、ですから〜!! 」

そんな会話をしながら森を進んでいく。

ゴブリンが草むらから飛び出して襲いかかってきた。

「あ、ゴブリン」

俺はそう呟いたが、一斉にツッコミが入る。

「レン様、こいつはゴブリングレートです」

「リーナ様やっぱりそうですよね!? どうみても普通のゴブリンじゃないですもんね!! 」

「ん、ゴブリンの数倍強い」

「えー? 同じようなもんじゃね? そいっ」

手刀で目の前の空間を横に切る。それと同時にゴブリングレートは真っ二つ。

「な、何をしたんですか!? 私にはレン様が手を少し振ったようにしか見えなかったんですが!? 」

「あってるよ」

「え、それで倒したんですか? 」

「うん。こう手でズバッと」

「私の目がおかしいだけですか!!?? 一切ゴブリングレートに触れてなかったように見えたんですが」

「触れてない。脆すぎて衝撃波で真っ二つになった」

「手を振るだけでゴブリングレート倒すって……もうなんか信じれません。レン様魔王だったりします? 」

「なわけ。ただの無能ぐーたら領主だ」

「こんな無能がいるわけないですよ!? ほんとにレン様のお父様であるマサカコンナコト国王様や兄弟の方たちは、レン様の何を見て無能と判断したんです!? 節穴すぎません!? 」

「病気なのかってくらいレン様のこと毛嫌いしてましたからね〜。けど剣聖様も賢者様も、結界魔術師長も、他の皆さんは気づいてますからね、レン様が優秀だってこと」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、買いかぶりだって。今の技くらい兄貴たち全員出来ると思うぞ? 」

「王国ってそんなバケモン揃いなんですか!? 」

「レン様以外誰にも不可能なので安心してください」

トメリルは呆れた様子でそう答えた。

「え!? 兄貴たちこれ出来ねぇの!? 」

こんな簡単なのに!?
手に魔力込めてズバッとするだけだよ!?

試しにやってみて、とお願いしてみると、リーナがやってみてくれることに。

魔力を手に込めている。全身から魔力が手に流れて集中していってるのがわかる。そして俺の真似をして手をふる。

目の前にあった木の幹に小さくではあるが傷がついた。

「ほら簡単だろ? 初めてだから傷が付く程度だけど、練習していけば、あのくらい余裕になるぞ」

「出来てしまいました……」

「えぇぇぇぇえ!?!? ちょ、リーナ様!? 」

「トメリルも頑張れば出来るようになるぞ。そうだ、開けた場所に着いたら皆で練習でもしないか。覚えておいて損はない技だし」

「じゃあ……お願いします」

「ん、やる」

「トルンは似たようなこと出来るだろ」

「レンに教えてもらいたい……だめ? 」

トルンが可愛くお願いしてきた。
そういうことなら仕方ない。というか断れん。

「じゃあ皆で練習だー! 」


30分後。
くたくたになった四人とサンドイッチを食べながら、領地を眺めていた。

森の上の方の開けた場所にある丘からだと、ちょうど領地一帯を眺めれる絶景スポットだった。

ちなみにここ、最初来た時にやばさがビンビンにあった例のどちゃくそにやばい森である。

道中いろいろ魔物が襲いかかってきたけど、ぶっちゃけザコしかいなかった。

最初に感じたあの気配、あれは気のせいだったのか。

「レン様、今日は領主の仕事お疲れ様です」

リーナがそう言ってきた。

「ピクニックしただけな気がするけど」

残り一個となったサンドイッチに手を伸ばしながら言う。

「あら、認めるんですか? 」

ギクッとなり伸ばしていた手が止まる。それを見逃さなかったリーナがサンドイッチを横取りする。

「私に内緒でお話して、私が近づいた瞬間にテレポートで逃げておいて、今はみとめるんですか」

「さーせん」

反論の余地もなく、今日の出来事が楽しかったからか、自然と謝っていた。

「ふふっ、冗談ですよレン様。ピクニック以外でもちゃんとお仕事してくれたじゃないですか」

「なんかしたっけ? 」

「私たち全員にチート技教えてくれたじゃないですか。しかも全員が安定して出来るようになるまで何回も」

「なりゆきみたいなもんだしなー」

「疲れた人から休憩させてましたけど、レン様は一切休憩挟んでませんでしたよね? 普段からサボりたがってるのに」

「そりゃ必死に頑張ってるお前らを置いて、一人で寝っ転がって鼻ほじったりはできねーよ」

「普段私とトメリルが必死に雑務こなしてるのを横目に、今言った行為をしているのはどこの誰ですかね」

「解せぬ」

「これで私が言いたいことって分かりますか? 」

「今日みたいにサボらずに仕事しろってことか? 」

「はぁ……ほんとに女心が分かりませんね」

またでた女心。今日だけで何回その単語を言われるんだ俺は。

「いや……これは関係ないかもしれませんが……自分からすることは面倒くさがるけど、相手から頼まれたことは絶対にやり遂げるし、真剣に取り組んでくれますよね。私、そんなレン様が……」

レン様が……?

「す……」

す?

「素晴らしいと思います。なのでこのサンドイッチをあげます」


奪われたサンドイッチが手元に戻ってきた。
リーナの食いくさしの半分欠けたサンドイッチが。

「あ、ありがとう? 」

手渡された食いくさしサンドイッチを口元に運び、ひと口。うん、美味しい。

「これから様々な苦悩も待ち受けてると思いますが、貴方となら乗り越えられる気がします。というか世界で一番問題起きそうです」

「人を厄介者扱いするんじゃありません! 」

「でも貴方のそばに居るのが世界で一番安全だとも思います。だから安心して私は身を委ねられます」

そう言うと隣までちょこちょこと移動してきたリーナは俺の肩に頭をポンッとのせると、すやすやと寝息をたてだした。

……なんでも完璧にこなすメイドさんでもあの練習は堪えたのかもしれない。

他のみんなもリーナを起こさまいと、談笑をやめて静かに夕陽を眺めているのであった。