「えっ……この魔物はまさか……」

魔物の死体を確認していた領民の一人が青ざめた顔をしている。なんだなんだと他の皆も覗き込んでいる。

「この人は【鑑定】のスキル持ちなんですよ〜。目利きが良くて、どんな素材もバッチリ調べれるんですよ。領民全員お世話になってます」

聞いてもないのに近くにいた一人が教えてくれた、ありがとう。

「ま、間違いないです……この魔物は……デスウルフです」

そんな目利きの鑑定士さんが言う。
デスウルフ。その言葉を聞いた瞬間、また領民たちが騒ぎだし、あれやこれや言い合い出す。

「Cランクくらいの魔物だろ? 」

なんでそんなおっかない顔してるんだ、と言おうとしたところを一斉に遮られる。

「Sランクの魔物ですよ!!!?? 」

「噛みつかれたら最後、噛まれた部分から瘴気が身体中に蔓延し死に至る。そんなチートみたいな魔物です!! 」

へぇー、こんな犬っころにそんな能力があるとは思えんけどな。

「戦闘職ではない俺でも倒せたんだぞ? やっぱ見間違いなんじゃないか? 普通のウルフが髪染めならぬ身体毛染めでもして、イメチェンしたんだろ」

「そんなバカな話あるわけないですよね!? 」

「領主様ってちょっと抜けてるトコありますね……」

「無いわい! 」

まったく、失礼な領民だ。この俺がそんな間違いする訳ないだろう。第一Sランクの魔物があんなに弱いかっての。

「それは領主様がお強いからでありまして……」

やだ、勘違いCランクウルフを倒しただけで、強いだなんて言われちゃった!

内心褒められて嬉しい気持ちもあるのだが、流石にCランクの魔物倒してドヤる領主はダメすぎるだろう。

「レン様、屋敷の掃除をしていて遅れてしまいましたが、緊急事態というのは解決されましたでしょうか? 」

お、ちょうど良いタイミングで完璧メイドのリーナがやってきた。

「なぁーリーナ。この犬っころいんだろ? こいつがSランクのデスウルフだってこいつらが騒いでるんだが、違うよな? 」

犬っころをじっと見つめた後、苦笑するリーナ。

「これデスウルフで合ってますよ」

リーナがそう言うと、

「そうですよねリーナ様!! 」

「領主様が普通のウルフだと認めてくれないんですよ!! 」

リーナに詰め寄っていく領主たち。

「いやいやリーナ。冗談だろ……俺がそんな大層な魔物倒せるはずがないだろ」

「何を仰ってるんですか、あなた相当なチート持ちじゃないですか」

「俺はただ魔法と魔道具とスキルが作れるだけだ! チートなんなじゃない! 」

「だからそれがチートなんですよ!? 」

「現に親父や兄たちはけちょんけちょんに貶してきてただろ!! 」

「あんのクソ国王!!! 」

「!? 」

「大体レン様の仰る普通の人間は、魔法を自作することなんて不可能です!! 」

「じゃあ魔道具はどうなんだよ! 作ってるヤツ沢山いんじゃねーか!! 」

「確かに魔道具は造れる方はいらっしゃいますね。ですがレン様が造るようなチート機能付きの魔道具はレン様以外誰にも無理です!!! 」

「じゃあスキルはーーー」

「神以外作れないはずですよ!? てか作れるんですか!? 私、初耳なんですけど!? 」

おおう……。何を言っても直ぐに返されてしまう。
俺たちの押し問答を傍で聞いていた領民たちはというと。

リーナ以上にびっくりしていた。中には顎が外れるんじゃないかと心配になるほど口を大きく広げている人まで。

「あ、あの……領主様……いくら領主様とはいえスキルを創れるなどと口に出されるのは辞めた方が宜しいかと……天使族や教会の人間に見つかれば、即刻クビをはねられてしまいます」

その言葉に深刻そうに頷く皆。
天使族って可愛らしい美少女を想像するけど、そんなおっかなびっくりな性格してんのか。勝手に美少女って予想してるだけで実は筋肉ムキムキのおっさんな可能性もあるけどな。

教会の人間は確かにめんどくせー奴らばっかだったな。
王子の仕事柄、何回か関わったことがあるが、話が通じなかった記憶しかない。女神の像の手に乗せられていた宝玉にヒビが入っていて割れかかっていたから、治そうとしたらドチャクソにキレられて、二度と治してやるもんかと頭にきたことがあった。

あれ放置してたら絶対いつか木っ端微塵に割れてる。

「しかしその件のおかげで聖女様に気に入られたので良かったのではないですか? 」

そう、頑固頭しか居ない教会の中で唯一まともだったのが聖女であるクレニール・スアントル。

宝玉の件で教会の殆どの人間から大目玉をくらい出禁になりかけたんだが、聖女が止めに入ってくれて宝玉が修理されてることを力説してくれた。

俺が何回言っても、「神聖たる女神の宝玉にヒビなど入っているわけが無い」の一点張りだったくせに、あいつらときたら聖女が同じことを言った瞬間、即座に認めやがった。
そして渋々感謝された。

その後、聖女に百回くらい謝られて、制止の声をかけても、聞きゃ、しない。
俺としては聖女に謝られても、ぶっちゃけ気分が優れるわけでは無かったが、その日唯一まともな人間と会話出来た事、俺を庇ってくれた事に感謝する意味で、後日食事の約束をして、その日は解散となったが、なんか普通についてきた。

帰り際話し相手がずっと欲しかったから嬉しいと笑顔で伝えられた俺。

「どうなったんですか? 」

「き、気になります! 」

ありゃ? なんか人だかりが増えてるんだが。こんな話聞くために仕事放り出して集まってきているのか……?

仕方ない、続きを話そう。
いやまじでどうでもいい話だし、なんにもならないが。

「流石の俺もここは何か気を利かせる場面だと思った俺は、錬金術で即座にベアーをデフォルメにした可愛めのぬいぐるみを作ってプレゼントして、顔も見ずにスタコラサッサ家に帰った」

「で、どうなったんですか!? 」

「実は……」

「「「実は!? 」」 」

ごくりと唾を飲み込む音が聞こえるほど、辺りは静かになる。俺の次の言葉を領民全員が今か今かと待ち構えている。

「これつい最近の話だから、なんも進展が無いんだ。しかも追放されたからもう会えん。まず俺が何処に行ったかすら分からんだろう」

まさか俺を追って聖女様がこんな辺境の領地にやってくる訳無いしな。

「これで話は終わりだ! 期待したような話じゃ無かっただろ? ほら、皆も帰った帰った! 俺も帰る! 」

変な話させられたせいで疲れた。

そんなこんなで解散となった。

ちなみにデスウルフは皆で美味しく頂き、爪は武器の加工に使うことになった。

にしてもあの話をしたせいで、聖女が今どうしてるのかが気になってきた。

あんな性格の聖女にとって、あの協会は窮屈なはずだ。いつか嫌になって、他の国の教会に移るかもしれない。

まぁ、こんな辺境に左遷された俺が、聖女と再開する事は無いだろうが……。