バケツとモップで最低限の掃除をすれば、あっという間に日が暮れていく。キッチンと各個室を掃除した、だけなのにだ。

 庭で洗濯をしていたメルリアの方はと言えば、手際よく、ロープに布団を掛けていた。そよそよとした風が吹いてるのは、メルリアの魔法だろう。

「あ、魔法も使ったので乾きますよ!」
「ごはん、は、俺は考えてなかったんだが、メルリアは?」
「カマドに火をつけてもらえたら作りますよ! 数日分の野菜とお肉は、買って来てるので」

 メルリアが居なければ、何も食べずに寝るところだった。頷いて、キッチンに戻る。ピカピカとまではいかないものの、キレイになったと思う。

「キレイになりましたね!」
「お、おう」

 素直に褒められて、少しこそばゆい。つい目線を逸らしてしまえば、メルリアはカバンから取り出した野菜を切り始める。

「火をつける時、呼んでくれ。代わりに布団乾かしてくる」
「ルパートさんのその全部できちゃうの、普通じゃないですからね」

 メルリアの言葉に、ははっと渇いた笑い声だけが出た。普通の人はどれか一つの属性を極めるので、精一杯らしい。まぁ、これも転生者特典というものだろう。メルリアだって回復魔法と風魔法を使えるじゃないかと、言いたくなったけど。メルリアは、本来こんなところにいるべき人間じゃないから当たり前だ。

 同じパーティーにいる時から、優秀で、いろんなパーティーからも、神殿からも、診療所からも引き抜きの声が掛かっていた。

 庭に戻って布団に風を当てる。少しずつ傾いていく陽に、充実感を感じた。まだ、初日だが、スローライフって感じだ。老化の呪いも、思ったよりもしんどくないし。最高な日だな、呪いに掛かってる俺が言うことじゃないかもしれないが。

「ギャアオオオオ」

 とモンスターの声が響いてること以外は、完璧な一日だ。あまり聞き覚えのない声だが、夜に近づいてるから鳴いてるんだろうか。

 暮れていく陽を眺めていれば、時間が経っていたらしい。布団は完璧に乾き切っているし、メルリアが火のお願いをしに来ていた。カマドに火を灯してから、布団を全て二階に運ぶ。太陽の匂いがする布団に釣られそうになるが、メルリアの作ってくれたご飯が先だ。それに、温泉にも浸かりたい。

 キッチンに戻れば、スープとサラダ。それとパンが用意されていた。二人で食卓について、食べ始める。

「スローライフって具体的にどうするんですか」
「まずは、野菜を育てようかと思う」
「じゃあ、種を買わないとですね」
「果樹とかの種もあれば良いんだがな」

 呟けば、メルリアは「いいですね!」と目をキラキラと輝かせた。すぐには、食べられないぞ、果樹は何年も掛かるんだから。

 それでも、期待してるメルリアには、何も言えずスープを口に運ぶ。久しぶりの人の手料理は、美味しかった。