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 ナリスも家に住み始めて、慣れてきたようだ。変わらず、お店には通っているらしい。というのも、注文すれば家に持って帰ってきてくれるようになったから、あまり店の方には顔を出していない。

 ただ、取れすぎる野菜とかも店に置いてくれていて、評判がいいということも教えてくれた。嬉しくなって、つい畑を広げすぎた気がする。

 目の前の広くなった畑を、見渡す。キャベツ、だいこん、イモから始まった畑だったが、今では採れない野菜はないんじゃないかと思うくらいの種類が生い茂っていた。

 季節も関係なく育つから、やっぱり、この畑はどっかおかしい。まぁ、それでも、野菜を育てて、魚釣りをして、タヌキをモフる。最高のスローライフを送れてるから、良いということにしよう。

 今日は、出来上がったマスカットを使って、ジュース作りでもと思い、収穫に来た。ナリスもお店がおやすみらしく、一緒に収穫を手伝ってくれている。

 丁寧にカゴに入れてきたマスカットは、つやつやと輝いていた。

「メルリア、ジュース飲んでみないか?」

 洗濯をしていたメルリアに声を掛ければ、急いで走ってくる。タヌキの耳にも届いたようで、キラキラとした目でこちらを見上げていた。

「これをどうやってジュースにするんですか?」

 メルリアの言葉に、創造魔法を発動させる。前世のミキサーをポンッと出せば、ナリスが食いついた。

「何この機械どうなってるの?」

 顔が近い!
 すぐ真横から、俺の手元に顔をひょいっと出すから手に触れそうだった。原理は説明できない。だって、知らないし。ただ、思い出しながら、創造魔法で出しただけだしな。

「使い終わったらバラしてみていい?」
「それは、全然構わない」
「やったー! 絶対再現してみせるから!」

 創造魔法でいくらでも出せるから、再現しなくてもいいんだが……ナリスはちからこぶを作って見せつける。まぁ、ナリスが楽しいならそれでいいだろう。

 マスカットを投入すれば、ブゥウウンという音を立てて周り始める。出来上がったジュースをコップに入れて、全員に渡せばごくごくと飲み始めた。

「甘いです! おいしいです! もっとくださいー!!!」

 一際反応が良かったのは、タヌキだった。メルリアもナリスも、目をキラキラとさせているからおいしかったのだろう。

「もっと果物を増やすか」

 畑の半分ほどしない果樹園を、見つめる。それでも、家を一〇軒は立てられそうな広さになっていた。みかん、ぶどう、りんご、桃はあるから。さくらんぼや、梨もいいな。

 果樹園の隣の乾いた土地を指し示して、ゴーレムに耕してもらう。

「やっぱり、スローライフは楽しいな」

 呟けば、タヌキがぼそりと小さくつぶやいた。

「スローライフじゃないと思うけど」
「おいしい料理に、家庭菜園、温泉、魚釣り! どこが違うんだよ」

 メルリアとナリスが、タヌキをもふもふと撫でながら、小さく言葉にした。

「ルパートさんに何を言っても無駄ですよ、タヌキ」
「そうそう、変わってるんだから」

 タヌキは、頷いてコロンっと転がって二人に腹を出した。

「いやいやいやいやいや、二人に言われたくはない」
「そういうとこも好きですよ」
「私もです! メルリアさんより後に出会ってますけど、気持ちは負けません!」

 そういうことじゃなくて、と言いかけたところで、ターコイズが俺の足元で腹を見せた。もふもふと撫でてやれば、気持ちよさそうに身を捩る。顔をガバッと埋めれば、非難するように「きゃいん」と吠えた。

<了>