家に着けば、ターコイズが小屋から飛び出てきて迎え入れてくれる。俺の癒しはやっぱり、お前だよ、ターコイズ。
撫で回そうとして、自分の手にこびりついた血が目に入った。エアーで撫でるふりをすれば、嬉しそうに尻尾を振った。可愛い。本当に可愛い。
「とりあえず温泉でも入るか」
「そうですね、ルパートさん血まみれですし」
「ナリスも入っていけば?」
「温泉って、なんですか?」
そういえば、ナリスには言ってなかった。メルリアの方に視線を動かせば、察したようにメルリアは小さく頷く。
「大きなお風呂ですよ! あ、せっかくなので今日泊まっていってください! 話したいこともたくさんありますし!」
「え、あ、お風呂あるの?」
「そうです、あるんですー!」
メルリアはナリスの背中をぐいぐいと押して、温泉へと向かっていく。俺も、温泉に入ってゆっくりしよう。
温泉にも浸かり、血を落とせば気持ちもサッパリとした。上がれば、メルリアとナリスの方が先に出ていたようだ。おいしそうなご飯が、食卓に並べられていた。
「ルパートさんさえ良ければ、ナリスもここに住まわせてあげませんか?」
おいしいスープに舌鼓を打っていれば、メルリアから唐突な提案を受けた。
「いや、住むのはいいけど、住む必要あるか?
「やっぱり、好きな人の近くにいたいじゃないですか」
先ほどの話から逃れられたと思ったのに、戻っている。断る理由もないけど、住まわせる理由もない。
「ただで、キッチン道具とか、作ってあげれるけど、どう?」
ナリスの提案は魅力的で、勝手に頷いてしまった。食卓周りを走り回るタヌキが、目につく。口元に見覚えのあるもの。
「あ、タヌキ! それ、タヌキの餌じゃないだろ!」
せっかく買ってきた鶏のおやつを、もしゃもしゃと食べている。捕まえようと手を伸ばせば、ひょいっと軽々しく避けられた。
「避けれんのか?」
俺の言葉にタヌキは、ハッとした顔をして、バターンと倒れ込む。こいつ、さては、ポンコツなふりしてたな?
「タヌキは、だめなんだぁぁぁぁ、ルパートに追放されちゃうぅうう」
わざとらしい声を出して、ジタジタと床の上で転げ回る。野菜食べ放題になると思って、さては、弱いふりをしていたな?まぁ、今更追い出すことはしないけど。
「わかったわかった、追い出さないから大人しくしてくれ」
「追い出さない? ほんと?」
「追い出さない、追い出さない。でも、本当はどれくらい強いんだ?」
「うーん……タヌキわかんない」
「そっか、わかんないか」
タヌキと会話してれば、メルリアにぐいっと腕を引かれた。
「で、ナリスさんにも住んでもらっていいんですか。逃げないでください」
「いや、逃げてない逃げてない」
「おやつだって、いくらでも作れますよ?」
ナリスの言葉に、つい頷く。それくらいには、魅力的な条件だった。冷静に考えれば、二人に迫られる日々が待っていることはわかっていたのに……