石を拾い集めて、鉱山を出れば心配そうな顔のナリスと何故か、タヌキが待っている。

「なんでタヌキがここに、いるんだ?」
「ナリスさんに呼ばれて来ました! って、ルパート血まみれですぅうううう! 死んじゃやだぁああああ」

 どんっ、どんっと、俺の足に頭突きをしながら、泣き喚くタヌキ。口に咥えていた上級回復薬を俺に振りかけ回りながら、頭突きをやめない。むしろ、頭突きの方が痛い。メルリアが首根っこを掴んで、タヌキを撫でる。

「返り血です。ルパートさんは死にません」
「返り血? ドラゴン出て来たので、もうダメかと思って……タヌキさんを呼びに行ってました」

 上級回復薬を作れることをどうやら、ナリスも知っていたらしい。メルリアが話したのかもしれないが。ナリスとメルリアが抱き合って、涙を流してるのを見れば突っ込むのも野暮だ。

「ナリスさん、ルパートさんの呪い解けてました」
「えっ? メルリアさんが解こうとしてたのに?」
「はい……もう、結婚する未来は閉ざされました」

 二人して肩を落として、俺の方を見上げる。先ほどは聞かないふりをわざわざしたのに、また言葉にするのは、聞いて欲しいから、なんだろうか。

 聞かなきゃダメか……?

 困っていれば、メルリアに抱かれたタヌキがひょいっと顔をこちらに覗かせる。

「ルパートとメルリアは結婚するの?」
「しない」
「やっぱり、私じゃだめですか!」

 そういうことじゃないんだ、そういうことじゃ。でも泣き出しそうなメルリアを見ると、否定もしづらい。

「むしろ、なんで俺なんだ。メルリアほど可愛くて、回復魔法の腕も良かったら、たくさんいるだろ。求婚者なんて」

 聞かないと決めたはずなのに、つい言ってしまった。ハッとしてメルリアの顔を見れば、頬を赤く染め上げている。タヌキは「きゃあー」と茶化しているけど、絶対わかってないよな?

「ルパートさんは、私の、王子様なんです」
「はい?」
「私が迷子になった時に探しに来てくれて、すぐにお姫様抱っこして運んでくれて……それに、いつも私を気遣って、最初の方なんて回復魔法も上手く使えなくて、役立たずだったはずなのに」

 仲間として、至極当たり前の対応だと思う。それでも、メルリアは続けた。

「それに、リースと喧嘩した時だって私を庇って殴られてくれた。仲間に手をあげるのは違うだろって、女の子扱いじゃなく対等な仲間として守ってくれた……みんな女の子だからって荷物を持ってくれたり優しくしてくれたけど、私には悔しかったんです。女だから、役立たずだからって、卑屈になってた私の心に光を差してくれたんです」

 記憶にないわけじゃない。ないわけじゃないけど、至極当たり前のことでは……? ぽかんとしていれば、止まらなくなったメルリアがつらつらと思い出を口にしていく。恥ずかしくなって来て、もうやめてくれと言いたくなったが、止まらない。

 ナリスに助けを求めるように視線を向ければ、ナリスも同調してうんうん頷いている。

「ルパートさんの考え方とか、言葉って、私も好きだな」

 ただ、普通のことを言ってるだけなんだが。二人からの褒める言葉に逃げるように、歩き出す。二人は横を着いてきながらも続けた。

「そうなんですよ、ルパートさんの考え方って、他の人たちとは違って」

 どうやら、意気投合したらしい。仲が良いなとは思っていたが、固い握手を交わして頷き合っていた。

「ってことで」
「ルパートさん、私たち二人と結婚しませんか?」
「ってことでの、意味がわからないな」
「はぁああそういうところも、好きです」

 隠すこともしなくなったようで、遠慮のなくなった好きの視線に居心地の悪さを感じる。嬉しいは、嬉しい。こんな可愛い子に言われること、前世でもなかったから。ただ、すぐに答えられるかと言われれば、ノーだ。メルリアは追いかけてきてくれた同居人だし、ナリスはいい隣人だ。

「考えておきます」
「そうやって答えてくれるとこも、いいよね! メルリア」
「そうそう、完全にだめじゃなくて、考えるって答えてくれるところが……」

 メルリアが、こんなに喋るタイプだとは知らなかった。もう答えるのもやめて、温泉を思い浮かべる。早くこのベトベトの血と、恥ずかしい空間から逃げたかった。