鉱山の内部はジメジメとしていて、薄暗い。光の球が先導して照らしてくれているが、ごつごつとした岩肌にぶつかれば痛そうだ。

 ぴたり、と光の球が止まる。メルリアの方を振り返れば、こくんっと地裁か頷いた。じぃっと目を凝らして見れば、大きな影が揺れる。

「ギャァアアア」

 鋭い唸り声に、バタバタと岩を削るような羽の動き。間違いなく、ドラゴンがそこに居た。メルリアは、攻撃があまり得意ではないから俺の全力をぶつけていくしかないだろう。

 ふぅっと小さく息を吐けば、後ろのメルリアが俺の手を握った。

「ルパートさんなら、大丈夫です」
「あぁ、行くぞ!」

 二人でドラゴンに近づけば、あまりの大きさに、後ろにそりかえって倒れそうになった。今持ちうる全力で倒すなら、創造魔法だろう。

 念じて、何本もの剣をドラゴンに突き立てようと、宙に浮かす。光の球が近づいたおかげか、ドラゴンの全貌が見えた。

 赤いごつごつとした肌は、剣が突き刺さるか不安になる程だ。一斉のタイミングで剣を送り出そうとしたところで、喉の柔らかそうな部分に突き刺さる剣が目に入った。

「メルリア、ちょっと待ってくれ!」

 声をかければメルリアは「はい?」と答える。そっと近づけば、ドラゴンは暴れてはいるが、喉の剣を取ろうと必死に手を動かしていた。

「その剣が痛くて暴れてたのか……?」

 問い掛ければ、ドラゴンの鋭い眼光が俺に向く。そして、ジタバタと暴れていた体を止めて「グルルルルルル」と唸り声をあげた。

 創造魔法の剣を消して、自分自身を宙に浮かせる。喉元に近づけば、ドラゴンはおとなしい。攻撃されたら、喉の剣を更に突き刺せば良いだけだ。言い聞かせながら、近寄っていけば、ドラゴンは自分の首を俺に差し出した。

 剣を抜き去れば、鮮血が溢れ出てくる。全身ドラゴンの血まみれだ。

「メルリア、回復魔法使えるか!」
「や、やってみますけど、ドラゴンにですか?」
「さすがに、魔力が持たない気がします!」

 魔法を唱えながら、必死にメルリアが回復してくれているが、ドラゴンの喉からの血は止まらない。ぐっと両手で押さえて止血してみるが、血管が太いのだろう。止まる見込みはない。

 治すための方法、何かないか。考えてみても、何も思い浮かばない。

 いや、一つあった。タヌキが作った上級回復薬! ポケットの中から、取り出してドラゴンの喉元に浴びせれば、シュウウウと煙をあげて治っていく。

「ありがとうございます。人の子よ」

 ドラゴンの優しい声が脳内に響いて、顔を上げれば優しい目でこちらを見つめていた。ぺこりとお辞儀をする姿は、まるで人のようだ。

「喉に刺さった剣を抜こうとしていたのですが……うまく抜けず、助かりました」
「あ、いや、いいんだ、全然」

 手を振れば、ドラゴンはクスクスと笑い声を響かせる。メルリアの脳内にもきちんと聴こえていようで、メルリアが俺の前に飛び出た。

「あ、あの!」
「はい?」
「肝の代わりに、何か、呪いを解けるようなもの、持ってたりしませんか?」

 ドラゴンの肝が欲しいと言ったのは、俺の呪いのためだったのか。一人で納得していれば、ドラゴンは悩み始める。

「呪い、ですか」
「はい、この人、ルパートさんが、老化の呪いに掛かっていて。助けたいんです。お願いします」

 メルリアの言葉に、ドラゴンは首をずいっと伸ばして俺を見つめる。さすがにドラゴンの顔とゼロ距離は心臓に悪い。ひょいっと後ろに飛んで避ければ、ドラゴンは困ったように言葉にした。

「呪い……で、すか?」
「はい」
「呪いに掛かってるようには見えませんが」
「え?」

 俺とメルリアの言葉が、重なる。老化の呪いだと思ってたのは、違った?

「いえ、厳密に言えば、残滓のようなうっすらとしたのは見えますが……数日経てば無くなるでしょうね」
「無くなる? え、呪いじゃなかったわけではなく?」
「呪いに掛かっていたであろうモヤは見えますが、消えそうなくらい薄いモヤですね」

 ドラゴンの言葉に、メルリアと顔を見合わせる。スローライフのための支援金、一括で貰っておいてよかったという感想ばかりが頭に浮かぶ。一度呪われてるから、詐欺には、ならないよな、多分。

「解けて、るってこと……?」