梅雨入りは遅かれ早かれだいたい六月からと決まっている。
　二年前、雨上がりの七月下旬。
　梅雨明けのその日の朝、最寄りの紫陽花の咲いた屋根つきのバス停で、ベンチに座り、一人で泣いている男の子を遠目に見つけた。
　歳は当時の16才のわたしと同い年に見えた。
　彼はベンチに座りとうとう堪えきれなかった一粒の涙をこぼして、無表情で、無言のままで、バスに乗るために恐る恐る近づいたわたしの姿を見るわけではなく、ただ静かに泣いていた。

『どうかしましたか？』

　すぐにかけよって声をかけられたらよかったけど、彼にとっては初対面のわたしが彼の事情に深入りするべきではないと思うと気がひけて、バスの到着時間までわたしはただその場で静かにしていた。
　五分後、予定時刻ぴったりにバスはやってきた。
　結局、彼はバスに乗らなかった。
　わたしは来たバスに乗り席に座って、車内から流れる景色をぼんやりと見ていた。
　理由はよく分からなかったけど、彼のことが執拗に忘れられなかった。
　それは彼が綺麗な顔だったからと納得づけたけど、実際のところ、彼が頭から離れないのはよく分からない。

　時を経て
　雨が上がった一年前の七月下旬。
　梅雨明けのその日の朝、最寄りの紫陽花の咲いたバス停のベンチに座り、一人泣いている男の子を遠目に見つけた。
　一日しか会ったことがなかったのに、去年も泣いていた人だとすぐに分かった。
　彼は去年と同じで、堪えきれなかった涙をこぼして、無表情で無言のままで、バスに乗るために恐る恐るバス停に近づいたわたしの姿をやはり見るわけではなく、ただ静かに泣いていた。

『どうかしましたか？』

　わたしが去年に初めてこのバス停で一度しか会ったことのない彼のことを覚えていても、彼にとってはわたしはやっぱり知らない人で、そう思うとやはり声はかけられなくて、結局何もないまま、わたしは予定時刻ぴったりに到着したバスに乗った。
　去年と同じで、結局彼はやってきたバスに乗らなかった。

　彼はどうして毎年、あの場所で泣いているんだろう？

　わたしはバスに乗り、席でぼんやりと流れる景色を見た。わたしはやはり何故か彼のことを忘れることはなかった。理由はよく分からなかった。けど少ししてぼんやりと、去年の彼と今の彼に共通点があることに気づいた。
　やたら綺麗な顔つきの彼は、あのバス停で決まって泣いている。
　水無月の季節の……梅雨明けの朝だけ。