さーと雨の音がする。
 その昔、六月は「青水無月」と呼ばれていた。
 木々の葉が青々と生い茂る季節であることから、水無月に青をつけたという理由があるらしい。
 誰もいない図書館の隅でふと辞書を手に取り、わたしは何故かそんなことを調べた。
 紫陽花と青の世界彩る、雨の季節。
 六月は「青水無月」
 わたしは知っている。
 それは、過去の話だと。
 現在六月は「水無月」と呼ばれている。
 もう「青水無月」としての時間は
 どこにも存在していない。
 ただ六月の名前が変わっただけで、今生きていく上で大したことないと思えそうなそのことが少しずつ心に滲み、滲んできたその感情がなぜ「悲しい」と思ったのか。
 ふと窓の外を見る。
 青が消え、滲み、また青になる。 
 梅雨明けの日々を過ごしているわたし。
 『青水無月』のことは何も分からない。
 今ぱっと思い付くのは、
 『水無月』の季節に、
 わたしは過去に一度だけ、
 紫陽花に傘をさしてあげたことがある。