七月三十日(木)

 帰宅時、アパートのドアを開けると、「おかえりなさい」という真澄の声が聞こえた。「ただいま」と答えながら僕は靴を脱いだ。
 真澄はキッチンのテーブル前に置かれた椅子に座っていた。僕はテーブルを挟んで真澄と向かい合って座った。
「さて、早速だけど僕の歌を全部聴いた感想を聴かせてくれないかな?」
「うん、基本的にはどれもみんな良い歌だと思った」
 僕を見る真澄の目には嘘の色は見えなかった。しかし「基本的には」という言葉がかなり気になった。
「ということは、良い歌ばかりだけど問題もあるということだね」
 一瞬ためらったような表情を浮かべてから真澄は口を開いた。
「気を悪くしないでね。一つ一つの歌に問題があるわけじゃないの。歌詞もメロディーもみんな良くできていると思う」
「じゃあ、どこが問題なのかな?」
 僕には真澄の意図するところが良くわからなかった。
「純さんの歌は切ない歌詞のスローバラードが多いでしょう。それは悪いことじゃないと思うの。だけど、九つの島の歌でアルバムを作るなら歌詞もメロディーもバラエティが必要だと思うの」
「なるほど」