七月二十九日(水)

「おかえりなさい」
 夜、食事を済ませ部屋に戻ると僕は真澄の言葉に迎えられた。キッチンに立つ真澄の姿は朝見た時よりも輪郭が少し明確になり、体の透明度も下がっているような気がした。
 僕がリュックを寝室の机の上に置くと、早速、真澄がリクエストをしてきた。
「純さん、今のところできているもう一つの島の歌を聴かせて」
「ああ、いいよ」
 僕はガラス戸の前に二つ座布団を並べてから三線をケースから取り出し腰を下ろした。
「真澄さんはこっちに座って」
 僕は自分の右側の座布団を示した。
「うん」
 真澄はやはり宙を歩くような足取りで移動すると僕の隣に腰を下ろした。
「竹富と鳩間の歌を聴いてもらったけど、今のところできているのは、あとは小浜島の歌だけなんだ」
「小浜島ってどんな所なの?」
「ああ、そうだね。小浜島は八重山諸島のちょうど真ん中にあって、大岳(うふだき)という山の頂上に上ると与那国を除く八重山の島が全て見えるんだ。あと有名なのはシュガーロードっていうサトウキビ畑の中の一本道かな。トゥマールビーチという奇麗な浜もあるね。小浜島は、昔、朝のドラマの舞台になったのでいくつか縁の地もあるよ」