「純さんの歌作りの手伝いができるなんて夢見たいな話だけど、本当にいいの?私、純さんの傍にいても何もしてあげられないのよ。掃除も、洗濯も、炊事も、何も出来ないのよ」
「いいよ」
 そう言った僕に翻意を促すかのように真澄は少し痛いところをついてきた。
「私は奈々さんの代わりにはなれないのよ」
 その時、僕は自分でも気づいていなかった気持ちを言い当てられたような気がした。確かに僕は奈々さんを思い出にしきれないまま、初めての一人暮らしを始めた心の隙間を真澄で埋めようとしているのかも知れなかった。
「真澄さんがどうしても僕に出て行ってほしいなら、無理にとは言わないけど」
 僕は少しずるい言い方をした。
「そんなことない。私、できるなら純さんの歌作りの手伝いをしてみたい」
 暗かった真澄の目が生者の輝きを取り戻したように見えた。
「じゃあ、決まりだね」
「すみません、よろしくお願いします」
 真澄は目いっぱい低く頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくね」
 こうして、生きている僕と幽霊の真澄の奇妙な同居生活が始まった。