「いいえ、謝らなければいけないのは私の方よ。私、純さんが出て行くまで屋根裏にでもいますから」
 いかにも申し訳なさそうな口ぶりで真澄は更に続けた。
「私がここから出ていけたらいいんだけど」
 それきり真澄は俯いて黙り込んでしまった。それから僕が次の言葉を発するまで少し気まずい沈黙が続いた。
「どうして僕が出て行くことになるの?」
 沈黙を破って出てきた僕の言葉はひどく真澄を驚かせたようだった。跳ね返るように顔を上げた真澄はまっすぐに僕の方を見た。
「だって、純さん、幽霊のいる部屋でなんか暮らしたくないでしょう」
 つい視線を逸らしてしまったが、僕は真澄の言葉自体は否定した。
「いや、僕は出てゆくつもりはないよ。僕は気にならないよ、真澄さんがここにいても」
 僕が視線を逸らしてしまったのは、自分の言葉には少々嘘があったからだった。幽霊と共に暮らすなんて、全く何の迷いも無く出来るものではなかった。でも、真澄を見捨てて一人で逃げ出すのはあまりにも可愛そうな気がした。
「そんな。純さんの好意に甘えることなんて出来ないわ」