僕の問いに答える真澄の声は更に辛そうになった。
「ううん、それだけじゃないの。私は、もう一度頑張って、お金を貯めようとしたのよ、でも、悪いことは重なるもので、今度は勤めていた工場がつぶれちゃったの。この部屋は会社が寮として借りていたものだったから、当然、立ち退きを迫られた。私は、住む場所も、仕事も、貯金も失って、誰一人頼る人もいない東京に投げ出されることになったの。私には帰る場所もなかったから、全くの八方ふさがり。ああ、こんな人生もういやだと思って、この部屋で自ら命を絶ってしまったの」
 正に不幸を絵に描いたような真澄の境遇に僕はしばらく声が出なかった。
「辛い人生だったんだね」
 気分が沈み月並みな言葉しか出てこなかった。しかし、その後の真澄の言葉は更に僕を暗い水底へと突き落とした。
「うん、でも、死んだ後も辛かった。気がつくと私は成仏もできず、この部屋に縛りつけられていたの。私が死んでから、色々な人がこの部屋で暮らし始めて、そして、去って行ったわ。でも、誰一人として、私がここにいることに気がつかなかった。死んでから約三十年間、私は本当に孤独だった。純さんが、ここに来るまでは」