上京が真澄の人生の好転に結びつかなかったのは既に明らかだった。僕は更に続く真澄の辛い物語を聞くのが苦しくなってきた。しかし、それでも聞かずにはいられなかった。
「東京に来てからはどんな生活をしていたの?」
「私は働きながら都立の定時制高校に通ってたの。卒業後は二部の大学に行きたかったから節約して学費のための貯金をしてたわ」
 働きながら学費をためて二部の大学を目指す。当時はそんな生徒たちも珍しくはなかったのだろう。今どきの定時制高校生の実態とはおよそかけ離れた話だと思った。しかし、そうまでして真澄が何を学びたかったのか僕は是非知りたいと思った。
「大学で何を学びたかったの?」
 ずっと暗かった真澄の口調が、その後、少しだけ明るくなった。
「笑わないでね。私、国文科に行きたかったの。本が好きだったから、図書室司書とか、国語の先生とか、本に関わる仕事がいつかしてみたかったの。資格を取って、そういうしっかりとした仕事につけば、一人でも立派にやってゆけると思ったのもあるわ」
「学費を貯めながらの生活は大変だっただろうね」