「うん、学校も辛かったけど、家にいる時の方がもっと辛かった。母は祖父母の家に戻ってきてから、働きもせず昼からお酒を飲んでた。育児も放棄してしまって、お祖母ちゃんが仕方なく私の面倒を見ていたの。母がそんな風だったから祖父母も村では形見が狭かったみたい。私は祖父母の厄介者だったからあまり可愛がってもらえなかった。母は育児を放棄した癖に、機嫌が悪いとよく私に暴力を振るったの。家は本当に針のむしろだったわ」
「そんな家だったら、確かに逃げ出したくなるね」
 いじめにあっていた時期でさえ僕には温かい家庭があったのだから、僕は真澄より遥かに幸せだったのだと思った。
「でもね、もっとひどくなったのよ。中学二年の冬に、祖父母の車が事故にあって二人とも亡くなったの。それからは、祖父母が亡くなって入った保険金とわずかばかりの貯金を食いつぶす生活で、母の暴力も激しくなったわ。だから、私は中学を卒業したら逃げ出すことにしたの。中学の先生も私の事情はよく分かっていたから、東京での働き口を探してくれたの」