真澄が話の進め方に少し困ったようだったので、僕はとりあえず彼女の誕生日や出身地を聞いてみることにした。
「まずは、真澄さんの生年月日を教えてくれないかな?」
「生年月日は昭和三十七年、西暦で言うと一九六二年七月六日です」
 ちょうど両親と同じ年の生まれだったので、真澄は生きていれば四十八歳だとすぐに分かった。しかし真澄の姿も話しぶりも両親とはおよそ異なり、二十歳そこそこにしか思えなかった。
「出身は何処なの?」
 僕は予定通り次の質問をした。
「住所を言っても分からないと思うわ。要するに青森の山の中の小さな村よ」
「なるほど」
 真澄の出身地の詳細は必要なかったので僕は話の本題に近づくことにした。
「で、東京にはいつ来たの?」
「中学校を卒業してすぐに来たの。私、中卒で近くの町工場に就職したの。実はこの部屋、会社が寮として借りていたものなの」
 中卒で上京して就職というのは、三十数年前の話としてもかなり稀なケースに思えた。気になったので僕は尋ねてみた。
「真澄さんは、どうして、中卒で、しかも遠く離れた東京で就職したの?」
 真澄は一瞬ためらったような表情をしたがすぐに答えた。