僕がそう言うと真澄は少し安心したように自分の正体を語った。
「私、幽霊なの。より正確には地縛霊という奴。成仏もできず、この部屋に縛りつけられたままどこにも行けないの」
「なるほど、そういうことだったのか」
 僕が納得すると真澄は更に謝罪の言葉を口にした。
「本当に、ごめんなさい。純さんの歌が素敵だったので思わず声をかけちゃったの。まさか聞こえるとは思わなかったから」
 僕は何だか真澄が可哀そうになった。
「そのことはもう謝らなくてもいいよ。ああ、立ち話もなんだから、そっちに座ってよ」
 僕はキッチンにあるテーブルを指差した。
「失礼します」
 真澄は宙を浮いているかのような足取りで移動して、椅子を引くこともないまま、気づけば椅子に腰掛けていた。僕は靴を脱ぎ真澄の向かい側に座った。
「真澄さん、よかったら、身の上話を聞かせてくれないかな。どうしてこの部屋の地縛霊になってしまったのかという、そのいきさつを」
 少し酷な気もしたが知りたいという思いが勝った。
「うん、全部隠さずに話すわ。私にはその義務があると思うの。でも、どこから話したらいいのかな?」