七月二十八日(火)

 その夜、僕と真澄の関係は劇的な変化をとげることになった。
 夕食を外で済ませ、鍵を開けてアパートの自室に入った途端に僕の背筋に寒気が走った。寝室に見知らぬ女性が立っていた。彼女はもう少しで肩に届くかという短い髪をした美しい女性だった。年齢はまだ二十歳そこそこといったところに見えた。しかし、彼女がこの世のものでないことは一目で分かった。彼女の体は輪郭がかなり朧気で、その体を通して後ろの部屋の壁が透けて見えていた。
 僕は玄関で立ち尽くしたまま、どうにか冷静さを失うまいと必死になった。とりあえず、一つ深呼吸をして、それから口を開いた。
「君は、一体、誰なの?」
 僕の狼狽えた様子を見て彼女は申し訳なさそうに答えた。
「純さん、私の姿が見えちゃったのね」
 真澄の声のようだった。
「もしかして、真澄さん?」
 僕は半信半疑だった。
「そうです、ごめんなさい。私、嘘をついていました。でも、どうか信じて。私、純さんを怖がらせたくなかったの。だから、普通の人間だって嘘をついたの、どうか、それだけは信じて」
 真澄の言葉には切実な思いが感じられた。その言葉を聞いて僕の背中にあった寒気は波が引くように消えていった。
「信じるよ」