第二章

 七月二十七日(月)
 
 バイトを終え帰宅すると、僕はまた昨夜と同じようガラス戸の前に腰を下ろした。三線のケースも目の前に用意はしたが、中身は取り出さずに真澄が声を掛けてくるのを待った。きっと、また真澄が声を掛けてくるに違いないと僕は思っていた。
「こんばんは純さん、アルバイト、お疲れ様でした」
 真澄は僕の予想、いや期待を裏切らなかった。 
「真澄さんも、お疲れ様でした」
 姿の見えない相手と話すのはやはり少し勝手が違った。視線のやり場に少々迷った。ともあれ、まず僕は、昨夜、真澄と別れてからネットで調べたことを真澄に報告した。
「やっぱり、そうだったのね」
 真澄の声には僕の話に驚いたような様子はまるでなかった。もう、その件には興味はないといった調子で早々に歌のリクエストをしてきた。
「今日も、純さんの歌、聴かせてもらえるかな?」
「ああ、喜んで」
 社交辞令ではなく本音だった。僕は本当に真澄に聴いて欲しいと思っていたのだ。
 真澄には、八重山の島の歌の二曲目、「鳩間島の歌」を聴いてもらった。