竹富の古い宿屋で会った君と共に
 島巡る自転車の旅始めた冬の朝
 赤瓦の古い家が並ぶ町並みを
 駆け抜けるT-シャツに降る
 夏色の日差し
 平成十九年一月二十日
 冬の日に訪れた幻の夏

 カイジ浜でほんの少し僕が探し当てて
 君の小さな手のひらに並べた星の砂
 様々な色に煌く珊瑚礁の海を
 飽きもせず君と見ていた
 冬の昼下がり
 平成十九年一月二十日
 波の上、蝶が舞う幻の夏

三線の音色に合わせ君と歌った夜
カチャーシー踊れば肌に微かに滲む汗
夜香木の花が香る庭に舞い込んだ
蛍火のように儚き
束の間出会い
平成十九年一月二十日
今はもう返らない幻の夏

 歌い終わると、真澄の声がした。
「歌が生まれた背景を知ったら、益々この歌が良い歌に思えてきたわ」
「ありがとう」
 真澄の言葉にお世辞の色は見られず、僕が喜んでいると、真澄が予想外のことを口にした。
「もう一つ質問があるんだけど」
 真澄は少しためらっていたようだった。
「ええ、まだ質問があるの?」
「うん、純さんは奈々さんとの出会いはただの偶然だと思う?」
 僕にすれば思いもよらぬ意外な質問だった。