「もうひとつ聞いていい?」
 いじめの話に区切りが着くと、真澄は次の質問を繰り出した。
「いいよ」
「奈々さんのことは、きちんと思い出にできたの?」
「できたとは言えないかな。未練がましく奈々さんの面影を追いかけているわけじゃなくて、何人か別の女の子と付き合ったけど、うまくいかなかった。どっかでまだ吹っ切れていないのかもしれないな」
「いじめの迷路から抜け出したら、今度は恋の迷路に迷い込んだってことかしら?」
「そのようだね」
「奈々さんの方は、今頃どうしているのかしら?」
「さあ、どうしているのかな?」
 そう言いながら、僕は、八重山を卒業した奈々さんが「自分が生きるべき場所」に戻ってきちんと生きていることを疑っていなかった。
そんな僕の様子を見て、少し間を置いてから真澄がリクエストをしてきた。
「ねえ、純さん、昨日の歌、もう一度聴かせてくれない?純さんの話を聞いたら、もう一度聴いてみたくなっちゃった」
「いいよ」
 僕は三線をケースから取り出し座布団の上に座ると、念のため糸を巻き直した。そして、イントロを弾き始め歌に入った。