翌日、不動は坊主頭で学校にやってきた。誰一人、理由を尋ねる者はいなかった。そして、僕へのいじめはぴたりと止んだ。
 その後、クラスは少しずつ元に戻り始めた。しかし、戻らないものもあった。僕と祐子が恋人同士に戻ることはなく、不動はいつまでも髪を伸ばそうとはしなかった。クラスで先頭に立とうとすることもなくなった。そのまま、クラスは三月の修了式を迎えた。

 その日、僕は日直だった。一人きりになった教室で日直日誌を書いている時だった。僕は自分の横に立つ人影に気づいた。不動だった。
「山崎、悪かったな」
 ぎこちなく言うと不動は足早に出口に向かった。
「不動」
 僕が呼び止めると不動は足を止めたが振り向こうとはしなかった。
「不動、そろそろ髪を伸ばしたらどうだ。坊主頭、似合わないよ」
 顔は見えなかったが、不動が苦笑いをしたような気がした。
「お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ。じゃあな」
 結局、振り向かないまま不動は教室から出て行った。その日以来、不動も祐子も、僕にとって過去の人になった。二年生になると、僕たち三人はそれぞれ別のクラスへと散っていった。