「山崎君、さっきはありがとう。山崎君が別の人になったみたいで驚いたけど、カッコ良かったよ」
「そんなことないよ。ちょっと人まねをしただけさ。『虎の威を借る女狐』って奴さ」
「ええ、どうして女狐?」
 裕子は不思議そうな顔をした。
「ああ、狐、狐だよね」
 裕子の反応を見て僕は少し慌てた。
「でも、不動君をやりこめちゃうなんてすごいね」
 裕子が今までと違う視線で僕を見ていているのに気付いた。でも、裕子の言っていることは的を得ていないと僕は思った。
「違うよ。不動を動かしたのは僕の脅しなんかじゃない。野上と吉沢さんの言葉だよ」
「そうかしら?」
「ああ、間違いない」
 僕は本心でそう思っていた。
「山崎君は本当に優しいんだね。裏切った私のことまで助けてくれて」
 一瞬、僕は次の言葉に迷った。しかし、その後、言うべき言葉はきちんと言えた。
「そのことはもう気にしないでいいよ。これからもずっと友だちでいてくれると嬉しいな」
「友だち・・・そうね」
 祐子は少し寂しそうに笑うと自分の席に戻っていった。