「嘘言ってんじゃねえ」
 不動が右の拳を振り上げた瞬間、予想外のことが起こった。不動が一番親しくしている野上が不動の拳を両手で押さえていた。
「不動、もう止めようよ。お前だって、本当は、もう止めたいんだろう。悪かった。本当は俺が最初からお前を止めるべきだったんだ。でも、止めなかった。反省してるよ」
 意外な展開に不動の目は焦点を失った。
 その野上の言葉に女子の学級委員の吉沢さんが反応した。吉沢さんは自席から立ち上がると不動の右肩に手を置いた。
「不動君、体育祭や球技大会の時のあなたはとってもカッコよかったよ。それに君は立派なクラスのまとめ役でもあったじゃない。私、昔の君に戻って欲しいな。そして、私が好きだった一年二組を返してよ」
 不動は虚ろな目で周囲を見回した。そして、周囲の空気の変化に気づいたようだった。しかし、不動はまだプライドを捨て切れなかった。
「お前ら、臭い青春ドラマみたいなこと言ってんじゃねえ」
 吐き捨てると不動は教室から出て行った。結局、その日、不動は教室には戻ってこなかった。

 一時間目が終わり休み時間になると、祐子が僕の所にやってきた。