第一章

 七月二十六日(日)

 夏休み最初の日曜日も僕は部屋の片づけに追われた。前の晩の女の声は多少気にはなっていた。女の声はかなりはっきりと聞こえたような気がしたが、ほぼ一日中部屋にいても一向に女の声は聞こえてこなかったので、夕方にはやはり気のせいだったのかと思い始めていた。

 女が声を掛けてきたのは、僕が早めの夕食を近所のラーメン屋で済ませて、前の晩と同じようにガラス戸の前に腰を下ろして三線を構えた時だった。
「すみません。昨夜は驚かせて御免なさい」
 申し訳なさそうな声だった。
 前の晩の声が幻聴ではなかったことがはっきりした。尋常ではない出来事に少々驚いたものの僕は丁寧に相手に問い返した。
「あの、もしかして、昨日の夜に声を掛けてきた方ですか?」