「さあね、夏は開放感のある季節だからかだろうか?お盆や夏休みもあるけど、それが終わるとまた現実に戻らなければならないしね」
 僕が並べたありふれた理屈は何一つ真澄の疑問に対する答えになっていないような気がした。
「私ね、夏の終わりがこんなに切なく思えたことがないの。今年の夏は良いことが色々あったせいかな?」
 真澄はどこか遠くを見つめるような眼をして話を続けた。
「初めて純さんの歌を聴いた時、とても感動したわ。それと約三十年ぶりに人と話ができてとても嬉しかった」
「あの頃はまだ真澄の声が聞こえるだけだったね」
 随分昔の話のような気もしたがほんの四週間前の出来事だった。
「あの頃は、私も、まだ生きている振りをしていたのよね」
 真澄は後ろめたいものの言いようをした。
「純さんの歌作りのお手伝いができたのもとても楽しかったわ」
「いや、こちらこそお礼を言わないとね。本当に助かったよ」
 わずか十七日間で六曲もの歌ができたのは単なる手助けのおかげとはとても思えなかった。真澄の存在自体が僕に何か特別な力を与えてくれたようにしか思えなかった。
「西表のビデオも嬉しかったな」