僕は真澄に言われるまま、シャワーを浴び浴衣に着替えることにした。

 シャワーを浴びた後、僕は浴衣を着た。真澄はキッチンに立ち、僕が買ってきた食べ物を皿に移しラップを掛けていた。
「どうだろう。似合うかな?」
 僕が声を掛けると真澄は振り向いて一瞬笑い出しそうな顔をした。
「うん、似合うわよ」
 真澄の顔には嘘だと書いてあった。
「嘘だろう。本当はそう思ってないんだろう」
「ううん、本当にカッコ良いわよ」
 そう言いながらも、真澄は今にも笑い出しそうだった。
「真澄は嘘が下手すぎるよ」
「あはは、バレたか。やっぱり純さんは英文科ってイメージだからなあ。でもね、一緒に浴衣着てくれたことは、私、本当に嬉しいの。それは絶対嘘じゃない」
 真澄は真剣な目で僕を見た。確かにその言葉には嘘はないのだろうと思った。

 部屋の外がすっかり暗くなり花火大会の開始の時間が迫った頃に、僕たちはガラス戸の前に用意した座布団に腰を下ろした。部屋の明かりはもう消してあり、卓袱台代わりのケースの上には既にビールも用意されていた。ガラス戸の向こうの夏の夜空を見ながら、僕たちは黙って花火が始まるのを待った。