「お世辞なんかじゃないよ」
 確かにそれはお世辞などではなかった。浴衣姿の真澄はオンボロアパートには似つかわしくない程に美しかった。

 僕はまずビールを全て冷蔵庫の中に入れた。買ってきた食べ物をテーブルの上に並べていると真澄が声を掛けてきた。
「せっかくだから、食べ物はお皿に盛り付け直すね。少し温め直した方が美味しいと思うしね」
 真澄は上機嫌だった。
「そうか、すまないな」
そう言いながら僕は冷蔵庫からビールを一つ取り出すと、椅子に腰を下ろして飲み始めた。自転車を漕ぎ汗をかいた体にはビールは正に命の水だった。
「ごめんね。暑かったから疲れたでしょう」
「いや、おかげでビールが最高に旨いよ」
「花火が上がる前から飲んでいたら最後はベロベロになっちゃうよ」
 真澄が小言めいたことを言ったが僕はやんわりとやり返した。
「大丈夫だよ、こう見えても結構お酒は強いし。明日も休みだからね」
 僕は残りのビールを更に口に運んだ。
「純さん、シャワーを浴びて、浴衣に着替えたら?きっと、さっぱりすると思うわ」
「そうだね、そうしよう」