僕は立ち上がり、バッグを掴むとドアに向かった。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
 真澄の声に見送られてアパートを出ると、僕は自転車で花火大会が行われる川辺の方に向かった。その途中で、僕はたくさんの浴衣姿のカップルを追い越していった。川辺に腰を下ろして間近で花火が見られる彼らが僕は少し羨ましく思えた。

 花火大会の会場に着き、自転車を指定された場所に止めると、僕は土手に上がった。土手の斜面はもう既にたくさんの見物客で埋め尽くされていた。僕は土手の上の道沿いに並んだ夜店を見て回った。真澄が食べたいと言っていたイカ焼きはすぐに見つかった。その後、僕はお好み焼きと焼きそばを買い、更にはデザート代わりに綿菓子まで買ってしまった。
 それから、僕は人の流れに逆らうようにして町中に戻りスーパーに入った。缶ビールをたっぷり買い込んでから僕は部屋に帰った。

「お帰りなさい。」
 帰宅した僕を迎えた真澄は既に浴衣に着替えていた。
「浴衣、どうかしら?」
 真澄は少し恥ずかしそうに尋ねた。
「似合っているよ。とても奇麗だ」
「ありがとう。嬉しいわ。お世辞でも」