「浴衣を着て恋人と花火大会に行ける女の子たちが羨ましかったからかな」
「そうか」
 二十歳前の女の子らしい話だと一瞬思ったが、真澄が続けたのはそんな甘い話ではなかった。
「私、花火大会って嫌いなの。私が死んだのはね、花火大会の日だったの。みんな浴衣を着て幸せそうに花火大会に出かけて行くのに、どうして、自分だけがこんなに不幸なんだろうって思ったら・・・」
「真澄、もういいよ」
 僕は真澄の言葉を遮った。
「ごめんなさい。こんな話を聞かせるつもりじゃなかったのに」
 泣き出しそうな声だった。
「僕の方こそ、ごめんね、鈍感で。真澄に辛い話をさせてしまったね」
 真澄は何も言わなかった。代わりにすすり泣く音が聞こえた。
 花火大会にそんな悲しい思い出があるとは僕は想像すらしていなかった。だが、その後、僕はそれを聞いたことは決して悪いことではないことに気づいた。真澄の悲しい思い出を消してあげることはできないが、これから良い思い出を作ってあげることはできると思ったからだった。